【9月8日 AFP】リオデジャネイロ・パラリンピック、5人制サッカー(ブラインドサッカー)のアルゼンチン代表シルビオ・ベロ(Silvio Velo)は生まれながらにして目が見えない。だが、彼が相手選手の股を抜く姿や、逆サイドでボールを受けてゴールを決める様子を見れば、誰もベロが盲目であることは分からないだろう。

 スピードやフィールド上での鋭い感覚、「ゴラッソ」を決める得点の嗅覚が持ち味のベロは、サッカーアルゼンチン代表のリオネル・メッシ(Lionel Messi)と比較され、「盲目のメッシ」との異名を持つ。

 現在45歳のベロはこれまで3度の世界選手権(IBSA World Blind Football Championship)制覇、2度のコパ・アメリカ(IBSA Copa America)制覇に加え、2004年のアテネ・パラリンピックでは銀メダルを獲得するなどアルゼンチン代表チームを数々の偉業達成に導いてきた。

 ベロはリオ・パラリンピックでは、「こうもり(Murcielagos)」の愛称を持つアルゼンチン代表の主将として、金メダルを目指している。

 音が聞こえるよう中に小さなベルが入っているボールを使って、5人制で行われるブラインドサッカーのトップ選手の多くは、ベロのように生まれながらに盲目であるという傾向がある。

 サッカーを始めた時のことを振り返ってベロは、「ボールの音を初めて耳にしたときは、まるで音楽のようだと思った」と笑顔で話した。

 アルゼンチンの港町サンペドロ(San Pedro)で目の見える友人とともにサッカーに明け暮れたベロは、分け隔て無く扱われて近所の子どもに交じって自転車に乗ったり、かくれんぼをして遊んだりもした。当時のことをベロは、「誰も捕まえられなかったけど」と笑って振り返る。

 10歳の時、ブラインドサッカーの存在を知ったというベロは、それ以前から他の子どもと対戦する際のすべを身につけていた。

 友だちが膝や肩、両足を使ってリフティングする音を聞いていたというベロは、「『ボールが見えないのにどうやってああいうことをやるんだ? 地面からボールを持ち上げれば、ボールをなくしてしまう』と思った」と語る。

 そこで、音が聞こえるようにボールをバッグの中に入れて練習するようにしたベロは、仲間にも負けないほどリフティングができるようになったという。

 ベロの幼少期からの友人で、現在は彼のトレーナーを務めるマリアーノ・アルナル(Mariano Arnal)さんは、ベロの才能やスピードに驚いたという。

「よく自分の手と彼の手を結んでランニングしたことがあったのだが、ベロがあまりにも速すぎて自転車を使うことになってしまった。それでもついていくことができなくて、最終的にはオートバイを使うことになった」と笑って当時を振り返る。

 ブラインドサッカーで縦横無尽に選手がピッチを駆け回るのに、まるで軌道上の惑星のように選手同士が衝突しないのには理由がある。

 実際の動きは通常のサッカーと非常に似ているようにもみえるが、ブラインドサッカーでは音が出る特別なボールを使用している。そのため、観客にはピッチ上で音が鳴っている間、静寂を保つことが求められる。

 試合中は選手たちがピッチ上でお互いの動きに指示を出す一方、監督がサイドラインから、加えてガイドと呼ばれる役割のスタッフがゴール裏から指示を出す。またフィールドプレーヤーは、視覚障害に個人差があるため、その差をなくすためのアイマスクを着けて試合に臨み、ゴールキーパーのみ目の見える選手が務める。

 5人の子どもを持ち、最近祖父になったベロはアルゼンチン代表の点取り屋として活躍するだけでなく、現在、アルゼンチン・ブエノスアイレス(Buenos Aires)の人気チーム、ボカ・ジュニアーズ(Boca Juniors)でプレーしている。それ以前にベロは、ボカのライバルであるリーベル・プレート(River Plate)でもプレーしていた。

 ベロの伝説的なキャリアにおいて、まだ手に入っていないものは、パラリンピックでの金メダルだ。リオ・パラリンピックに向けてベロは、「あのメダルを獲得したい。(金メダルだけが)われわれに欠けている。最高に興奮しているよ」と語った。(c)AFP