【8月19日 AFP】リオデジャネイロ五輪の陸上男子400メートルで世界新記録を樹立したウェイド・バンニーキルク（Wayde van Niekerk、南アフリカ）は、自分の偉業がクリーンな選手の士気を高めると強調する一方で、薬物なしで世界記録が出せるとは信じていなかったと認めた。

　14日に行われた同種目の決勝で、バン・ニーキルクは米国のマイケル・ジョンソン（Michael Johnson）氏が17年間も保持してきた世界記録を更新。アスリートが立て続けに新記録を樹立すると、それらすべての記録に薬物疑惑が持ち上がるが、バンニーキルクは自身のパフォーマンスによって、クリーンな選手でも快挙を成し遂げられることを証明したと主張している。

　コパカバーナビーチ（Copacabana Beach）でAFPの取材に応じたバンニーキルクは、「クリーンな状態で競技に臨みたいアスリートにとって、良い証明になったと思う。僕も以前は何かを使用しなければ44秒を切ることは不可能だと考えていたけれど、今の僕を見てくれ。僕はクリーンでそれを成し遂げ、純粋なハードワークと献身でやり遂げたんだ」と話すと、「僕に証明できたのだから、誰にでもできる。僕がその成功例になればいい」と語った。

　ロシアが国家ぐるみでドーピングを隠ぺいしていたことが発覚し、同国の陸上選手が出場を全面禁止にされるなど、リオ五輪の陸上競技は大会前から騒動に包まれていた。

　100メートルで9秒台、200メートルで19秒台、400メートルで43秒台を記録した今季最初の選手でもあるバンニーキルクは、ジャマイカでトレーニングを行っていた際、陸上界の王者ウサイン・ボルト（Usain Bolt、ジャマイカ）と話す機会があり、「チャンスをつかめ」と激励されたことが大きな刺激になったと明かす。

「だから本番では全力を尽くしたよ。好調を維持しているこの時期を逃したくなかったからね。彼がくれたアドバイスに従い、トラックでは一つ一つのチャンスをものにしながら、自分を向上させていった」

　その一方でバンニーキルクは、ボルトから「歴史にその名を刻むだろう」と大胆な予想を立てられていたにもかかわらず、1999年にジョンソン氏が樹立した世界記録の43秒18を更新することを少しも考えていなかったという。

　2015年に行われた世界陸上北京大会（15th IAAF World Championships in Athletics Beijing）の男子400メートルを制しているバンニーキルクは、「ただ出場して昨年の成績を繰り返そうとしただけだった」とすると、「速くなることはもちろん大好きだ。だけど、世界記録を更新？ それが可能だなんて本当に考えてもいなかったし、まさに神の恵みだよ」と述べている。

「（ボルトが）レース後に僕のところに来て、こう言ったんだ。『君ならできると言っただろう！本当に特別な瞬間だ』とね。五輪の数か月前にもボルトと話をしたんだけれど、彼は僕なら（記録を破ることは）可能だと言ってくれたんだ。それが自信につながったことはたしかだ。…そうだね、彼が与えてくれた自信に感謝している」

　次の注目レースとして、ボルトから冗談半分で300メートル走対決を示唆されているバンニーキルクは、「わざわざ足を運んで『ウサイン・ボルト、あなたに挑戦したい』なんて言うつもりはないけれど、彼のような偉大な選手と対戦することができるのであれば、自分にとって大きなモチベーションになることは間違いない」と話している。

「いつも最高のレースを心がけている。彼のような素晴らしい選手が相手であればなおさらだ。だけど、ビクトリーウオークでトラックを周るだけでも光栄に思うだろう」

(c)AFP/Talek HARRIS