■「完璧な薬」を目指して

 研究チームは、脳内にある「オピオイド受容体」に新たに着目した。この受容体は、活性化されると痛みの抑制作用を引き起こす化学反応を誘発する。

 錠を開ける鍵のように、受容体とうまく「ドッキング」できる分子だけが機能すると考えられる。

 だが、中毒や呼吸障害を回避するために、この同じ分子は、モルヒネがするような、望ましくない反応を誘発する2番目の受容体とのドッキングをしないようにしなければならない。

「薬剤発見の従来型のアプローチでは、化学物質の小さな箱の中に閉じ込められてしまう」とショイシェット教授は説明する。

「だが、対象とする受容体の構造を始点にすると、こうした制約をすべて取り払うことができる」

 研究チームは、コンピューターシミュレーションを用いて、市販の化合物300万種と、それぞれの化合物が取り得る100万パターンの立体配置について、受容体に最もよく合うのはどれかを調べる試験を行った。

 実験室内で数兆通りに及ぶ選択肢をくまなくチェックするには、膨大な費用と時間がかかると考えられる。

 約2500の分子が、この試験を通過した。

 オピオイド類との類似性が高すぎる分子を除外すると、23個しか残らなかった。

 さらに詳細な分析の結果、「悪い」分子経路を誘発せずに「良い」分子経路を活性化する分子は、それらの中の1個だけであることが分かった。この場合にも、分子に対してさらなるカスタマイズ処理を実行する必要があった。

 カナダ・マギル大学(McGill University)精神医学部のブリジット・キフェル(Brigitte Kieffer)教授は、ネイチャー誌に掲載された解説記事で「コンピューターを用いた、構造に基づくふるい分けが、薬剤発見のペースを加速することはほぼ間違いない」と述べている。

 今回の最新研究は「完璧な薬への一歩」となると、キフェル教授は続けた。(c)AFP/Marlowe HOOD