【8月3日 AFP】米フロリダ(Florida)州南部に広がるフロリダパンサー国立野生生物保護区(Florida Panther National Wildlife Refuge)。マイク・ケイン(Mike Kane)氏はオレンジ色の大型ホチキスと、緑色の根が絡みついた四角い麻布数十枚を手に、腰ほどの深さの沼地を分け入っていく。長年にわたって違法に採取され続けてきた結果、激減してしまったある植物の個体数を回復させるためだ。

 その植物は名前を「幽霊ラン(学名:Dendrophylax lindenii)」という。

 幽霊ランは、かつてはフロリダ州のエバーグレーズ(Everglades)に多数自生していたが、専門家によると現在は州全体で2000株足らずしか残っていない「絶滅危惧種」だ。対岸のキューバでもいくらか確認されているが、その数についてはよく分かっていない。

 フロリダ大学(University of Florida)の環境園芸学の教授であるケイン氏は、幽霊ランの生息を最も脅かしているものとして、密採のほかに都市化や農薬汚染などを挙げる。農薬の散布で生息地が汚染されると、受粉を媒介する昆虫の数が減ってしまうのだという。

「このままでは絶滅してしまう」。そう危機感を募らせるケイン氏は、幽霊ランを沼地で繁殖させるプロジェクトを率いている。今まで誰もしてこなかった試みだ。

 ケイン氏と大学院の学生たちは、フロリダ州北部にある研究室で遺伝子の異なる種子から幽霊ランを栽培。数年かけて育てた苗を、フロリダパンサー国立野生生物保護区内の奥まった人けのない場所に運んで植え付けている。今年は160株を植えたという。

 ケイン氏によると、昨年植えたのは半分の80株だった。植え付けから数週間後に沼地に見に行ったところ、大半が無事に生育しているのが分かり、当時大学院生だったベトナム人のグエン・ホアンさんとその場でハイタッチを交わして大喜びしたという。「とても順調に育っていて、にわかには信じられなかった。とても驚いたよ」