■「純粋な喜び」

 広報担当のワン氏によると、1匹10万ドルという高額な費用にもかかわらず、クローン犬の依頼は世界中から寄せられる。そのおよそ半数は北米からだという。

 犬だけではなく、ペットの猫やヘビ、チンチラのクローンを求めてくる顧客もいるという。だがワン氏は、そうした動物の需要は少なすぎるため、投資に見合わないと語った。

 5階建てのスアム研究院の壁には、クローン犬と笑顔の飼い主たちの写真が何十枚も飾られている。それらの写真には、顧客たちの出身国の国旗も添えられている。米国、メキシコ、ドバイ、ロシア、日本、中国、ドイツなどさまざまだ。

 有名な例としては、2001年の米同時多発攻撃で崩壊した世界貿易センタービル(World Trade Center)のがれきから多くの生存者を救出した救助犬「トラッカー(Trakr)」のクローン犬が5匹作られたことが挙げられる。

 スアム研究院の顧客には著名人もいる。2015年に愛犬のクローンを作ったドバイのシェイカ・ラティファ(Sheikha Latifah)王女は、乳量の多い品種のラクダのクローンを作るための共同研究の立ち上げにも協力した。だが同研究院の顧客や資金面での支援者たちはほとんどが匿名を希望している。

 スアム研究院は、医学研究目的で、遺伝子を操作してアルツハイマー病、糖尿病、ある種のがんを発症しやすくした「疾患モデル動物」も作っている。

 AFPがスアム研究院のクリニックを訪れた際、黄氏自ら、ビーグル犬の胚を代理母となる犬の子宮に移植する作業を行っていた。「この犬は、生まれたら、人間の脳腫瘍の『疾患モデル』になり得ます」と黄氏は語った。

 それでも研究主任のチョン・ヨンウ(Jeong Yeon-Woo)氏はペットのクローンが最も好きな仕事だと語る。「(クローンで生まれた子犬を見た飼い主は)行方不明になっていた子供と再会したような反応を見せます。そんな純粋な喜びの瞬間は…私がなぜこの研究をしているのか改めて思い出させてくれるんです」

(c)AFP/Jung Ha-Won