【6月17日 AFP】時に写真はすべてを語らない。その一例は、フランス北部ドゥシーオルシン(Douchy-Haulchin)にある石油精製所の封鎖を警察が突破したときに私が撮影した写真だ。デモ隊と警察の暴力的な衝突に見えるだろう。だが事実は少し違っていた。

 精製所の封鎖は、政府が下院を強行通過させた労働法改革法案に対する全国規模の抗議運動の一部だった。この労働法改革の狙いは、雇用や解雇を容易に可能にすることで、硬直していると言われるフランスの労働市場を緩和することだ。失業率を10%程度まで低下させたい政府は、そうした柔軟性を手にしていると企業が思えば、雇用を拡大するはずだと主張している。

 しかし反対派は、改革法案は企業側に都合が良すぎると反発している。政府の政策に抗議してストライキを起こすのはフランスの国民性の一部であり、ここではよく起こっていることだ。多くの人は、労働者に有利なよう定められている厳格な労働法は、解雇を容易にさせないようになっており「聖域」だとみなしている。そのため労働組合たちは何か月にもわたり、改革法案に反対するデモやストライキを繰り広げている。

仏北部ドゥシーオルシンで、労働法改革に抗議し石油精製所を封鎖する労働者ら(奥)と、デモ隊を解散させる準備をする機動隊(2016年5月25日撮影)。(c)AFP/FRANCOIS LO PRESTI

 そして5月後半、製油所や燃料貯蔵施設がデモ隊によって封鎖されたのに加え、全国のほぼすべての原子力発電所(原発はフランスの電力供給の75%を占める)の従業員がストライキへの参加を決定し、緊張が高まった。精油所の封鎖を受けて、仏全土のガソリンスタンドには長蛇の列ができ、政府は備蓄燃料に手をつけざるを得なくなった。

 ドゥシーでも5月中旬からデモが始まった。5月24日の火曜の夜、ジャーナリストとデモ隊の間で、翌朝の日の出とともに警察が出動し、封鎖を突破するとの噂が広まった。それまでに仏北部では、パニック買いによって全ガソリンスタンドの5分の1で燃料が底を尽いていた。隣国ベルギーのガソリンスタンドでも列ができていたため、仏政府は数か所の製油所の封鎖を排除すると宣言していた。

仏北部ドゥシーオルシンで、労働法改革に抗議し石油精製所を封鎖する労働者ら(手前)と、デモ隊を解散させる準備をする機動隊(2016年5月25日撮影)。(c)AFP/FRANCOIS LO PRESTI

 私はドゥシーの製油所の近くに住んでいるため、水曜の早朝4時頃、現場に最初に到着したフォトグラファーの一人だった。約80人のデモ隊が製油所の前の道路をふさいでいた。昼夜を通して6日間、そこにいた彼らは、警察が来たときの対応もあらかじめ考えていた。道路に積んだタイヤに火を放ち、それ以上は衝突しないよう、ばらばらに退散する計画だった。

 警官隊は5時過ぎ、暴動鎮圧用の装備で放水銃を持って到着した。数日前にデモ隊との衝突があったばかりだったため、警官隊は万全の体制でやって来た。しかしその朝、デモ隊の中に問題を起こす者はいなかった。労組の組合員たちが計画通り、道路に準備したタイヤに火をつけただけだ。

仏北部ドゥシーオルシンで、労働法改革に抗議し石油精製所を封鎖する労働者ら(奥)と、デモ隊を解散させる準備をする機動隊(2016年5月25日撮影)。(c)AFP/FRANCOIS LO PRESTI

 炎は大きく燃え上がった。警官隊はゆっくりと前進し、デモ隊は後退した。私は撮影をするために、何の問題もなく両側を行き来した。私は地元の住民で、警察側にもデモ隊側にも多くの友人がいたからだ。何よりも、暴力的に振る舞う者はいなかった。

仏北部ドゥシーオルシンで、労働法改革に抗議し石油精製所を封鎖する労働者ら(奥)と、デモ隊を解散させる準備をする機動隊(2016年5月25日撮影)。(c)AFP/FRANCOIS LO PRESTI

 警察が放水銃を発射すると、デモ隊は一瞬のうちに散った。消防隊が火を消し、デモの参加者たちは自分の車へと戻って行った。誰もけがをせず、誰も逮捕されなかった。

 フランスの他の地域では同様のデモが激化して暴動となり、警察とデモ隊の双方に負傷者が出たところもある。だがドゥシーでは、双方が威嚇し合うだけで終わった。たとえ私が撮影した写真が、燃え盛る炎と朝日のせいで危険な衝突が起きたかのように見えたとしても、現実はそうではなかった。(c)AFP/François Lo Presti


このコラムは、北フランスを拠点に活動するフリーランス・フォトグラファーのフランソワ・ロ・プレスティ(François Lo Presti)氏がAFPパリのロラン・ドクルソン(Roland de Courson)記者と共同執筆し、同ヤナ・ドゥルギ(Yana Dlugy)記者が英訳、2016年5月26日に配信したブログ記事の日本語訳です。

仏北部ドゥシーオルシンで、労働法改革に抗議し石油精製所を封鎖する労働者と、デモ隊を解散させる準備をする機動隊(2016年5月25日撮影)。(c)AFP/FRANCOIS LO PRESTI