【6月15日 AFP】フランスで開催されているサッカー欧州選手権2016(UEFA Euro 2016)で暗い影を落としているサポーターの暴力問題。そこでAFPは、特に危険な行動を起こしているロシアの過激サポーター集団「フーリガン」の実態について解説する。

――どこから来たのか?

 ロシアのフーリガンは、えりすぐりのメンバーで構成される組織化した集団で、「ファーム」の名で知られている。1990年代初頭のソビエト連邦解体に伴い、英国フーリガンの情報が自由に流れ込むようになったことをきっかけに設立され、集団ごとに階級が存在する。

 ロシアでフーリガンを扱った書籍の執筆や、テレビのドキュメンタリー番組の制作を手掛けるウラジーミル・コズロフ(Vladimir Kozlov)氏は、「1990年代初頭までファームは存在しませんでした。英国のフーリガンがきっかけになったのは間違いありません。彼らを模倣したんです」と語っている。

――何者なのか?

 基本的には普通の仕事に就き、家族を持つ人もいるが、ロシアのフーリガンには格闘技の愛好家が多く、イングランドのフーリガンと比べると体の鍛え方が違うという自負を持っている。

 現在フランスに滞在しているフーリガンのデニス(32)は、「イングランドのやつらは飲んでばかりでトレーニングをしないが、俺たちは飲まずにトレーニングする。その俺たちの道がどこかで交われば、彼らに希望なんてあると思うか?」と話し、今大会を「欧州の猛者と拳を交えるチャンス」と称している。

 同じくフーリガンの一人で、モスクワで広報の仕事をしているというウラジーミル(30)は、「ロシアのファンやフーリガンは、20歳から30歳くらいの若者だ。そのほとんどがスポーツマンで、ボクシングや格闘技全般をたしなんでいる」と述べている。

――人数は?

 コズロフ氏は「現在も活動中のフーリガンは数百人程度で、多く見積もっても数千人」としており、「ウルトラス」と呼ばれる特に過激なサポーターはそれほど多くないとの見解を示している。

 フランスで暴挙に出るロシア人のすべてが、フーリガンというわけではないらしい。それでもコズロフ氏によれば、それと思しき者たちの姿も確認できたという。

「よく似たおそろいのTシャツを着て、まるでスポーツに興じているかのようにみえる集団がいました。非常に統制が取れていたという目撃証言もあるため、おそらくその連中がファームのメンバーでしょう」

 英レスター大学(Leicester University)で社会学の上級講師を務め、フーリガニズムを研究するジョン・ウィリアムズ(John Williams)氏は、そうした点がイングランドのファンとは対照的だったとみている。

「フランスからの報道を見る限り、イングランドのファンは酔っぱらって自分をコントロールできずにいた。ロシアのウルトラスはしらふで、非常に組織立っていたように感じた」

――なぜ暴力行為をはたらくのか?

 コズロフ氏によると、フーリガンと普通のファンの境界線は「あいまい」だが、「ファーム」の最大の関心は、ほかのフーリガン集団との戦闘にあり、「基本的にはほかのファームを敵とみなし、戦うこと」に特化しているという。

 実際、デニスも「サッカーは二の次さ。俺にとっては、このスポーツは面白くもないし、興味もない」と語っており、他国のフーリガン集団との戦闘が「お互いの名誉をかけた場であり、組織力や戦闘力といった自分たちの強さを確かめる場でもある」としている。

 ロコモティフ・モスクワ(Lokomotiv Moscow)のサポーターだというウラジーミルは、海外に遠征すると、国内のファーム同士が団結すると語っている。ウラジーミルによると、「150人ほどの精鋭」が、イングランドのサポーターと対決するためだけにフランスに飛んだと証言している。

 ウラジーミルはまた、ロシアのフーリガンには厳しいおきてがあり、戦いの際は武器を持たないのが原則だと明かしている。

 しかし、コズロフ氏は「素手しか使わず、フェアな戦いしかしないと表向きでは言っていますが、実際は利用できるものはなんでも利用しますよ」と述べており、ロシアのフーリガンの哲学は、「こいつは仲間、あいつはそうじゃない、だから敵」という「極めて原始的なもの」だとしている。

――このまま野放しなのか?

 ロシアでは、人種差別や暴力といったスタジアム内での問題に対して、「厳しい罰が下される」ことがほとんどないとコズロフ氏は嘆く。

 それでも、2018年にはロシアでW杯(2018 World Cup)開催を控えており、ウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領もこのプロジェクトに国家の威信をかけていることから、状況は変わる可能性がある。

 ウィリアムズ氏は、ロシア当局が「国内のフーリガンを大会前、そして必要であれば大会中も厳しく取り締まること」に期待を寄せた。(c)AFP/Maria ANTONOVA Anna MALPAS