【6月13日 AFP】インド中部マディヤプラデシュ(Madhya Pradesh)州グワリオル(Gwalior)の政府が運営する病院の集中治療室(ICU)で、看護師が赤ん坊をあやしていた。道を挟んだ向かい側にある民間のパラシュ病院(Palash Hospital)が、新生児を闇市場に売っている疑いで警察の強制捜査を受けた際に救出された赤ん坊だ。

「この女の子は衰弱していて特別なケアを必要としている」と、その看護師は未熟児で生まれ、今はこの病院で治療を受けている赤ん坊の背中を優しくたたきながら語った。

「素敵なカップルがこの子を養子に迎えて、わが子のように育ててくれることを祈っている」と、看護師は言った。

 警察は、パラシュ病院のスタッフが赤ん坊を10万ルピー(約16万円)ほどで売っていたとみている。未婚で出産した母親に対し、仲介人が赤ん坊を放棄するよう説得しているという。

「彼ら仲介人は、人工中絶を希望していたが、説得に応じて出産してくれるような妊婦を入念に探し出していた」と、先月の強制捜査を率いたクマル・プラティーク(Kumar Prateek)警視はAFPに語った。

「彼女たちは未婚の母で、弱い立場だ。病院は彼女たちを搾取して、赤ん坊をもらう代わりに出産の事実を秘密にすると約束していた」。警視によれば、保守的なインド社会では未婚の母には汚名が着せられるという。

 グワリオルで政府が運営する病院から道を挟んだ場所にあるパラシュ病院は、強制捜査を受けて閉鎖された。警察は、同病院で生まれた5人の赤ん坊を追跡し、ほかの都市に住む夫婦に違法に売られたことを突き止めたという。

 捜査官たちは、実際に売られた人数はもっと多いとにらんでいる。同病院の記録によれば、この数年で700人以上が生まれているからだ。

「私たちが問題視している堕胎や違法中絶と違い、病院で出産されている赤ん坊については疑いをかけたことがなかった」と、グワリオルの医務部長、アヌープ・カンタン(Anoop Kamthan)氏はAFPに語った。「母親は自らわが子を放棄していた」

 活動家たちによれば、女性や子どもの人身売買が横行しているインドでは、闇市場での養子縁組は一般的に行われているという。ただ、公式な統計がないため、実態は分かりづらい。

「新生児が虚偽の死亡宣告をされ、後で養子として売られていく事例を、私たちは見てきた。巧妙に構築された闇のネットワークが全土に広がっている」と、子どもの人身売買への反対活動を行う国際NGO「アゲインスト・チャイルド・トラフィッキング(Against Child Trafficking)」のアンジャリ・パワル(Anjali Pawar)氏は言う。

 これまでの捜査で、同病院は子どものいない中間層の夫婦から10万ルピーを得ていたことが判明している。

 ある夫婦は、自分たちが養子にした赤ん坊が、この病院のスキャンダルに含まれる一人だと警察から告げられ、大きなショックを受けたという。

「私たちは養子縁組に際し、すべての手順に従った。文書も問題ないように見えた」と、父親は匿名を条件に語った。「私たちは養子にした子どもをわが子のようにかわいがっている」(c)AFP/Jalees ANDRABI