■各地で進む先進的取り組み

 ブラウン君が現在通う高校は、トランスジェンダーの生徒が過ごしやすい環境の整備に積極的だ。人口1万8000人ほどのイリノイ州ディアフィールド(Deerfield)にある同校には、性別に関係なく利用できるトイレや更衣室が校内に設置されており、ブラウン君は安心してこれらを使うことができる。

「ただ生き延びようとするのではなく、学校生活に集中できるようになった。以前は体育の時間はどうしようかとか、学校ではどのトイレを使えばいいかと心配していたけど、今は授業に集中できるようになった」と、彼は言う。

 ディアフィールドは、トランスジェンダーのトイレ使用をめぐり全米で巻き起こっている論争からかけ離れた場所のように思えるかもしれない。だが、同様にトランスジェンダーの生徒に寄り添う方針を掲げている学校は他にもある。

 ディアフィールドからそう遠くない人口270万人のシカゴでは、公立学区当局が区内の公立学校の校長向けにガイドラインを策定した。

 シカゴ公立学区のジャニス・ジャクソン(Janice Jackson)教育長によると、同区では「校長とカウンセラー、生徒とその親が一緒になって、各生徒に合わせた支援方法を考え、生徒が校内で安心でして過ごせる環境づくりをしている」という。

 米司法省は最近、トランスジェンダーの生徒には自分が認識する性のトイレを使用させるべきだと全米の学校に通達した指針の中で、シカゴのほか、アラスカ(Alaska)、マサチューセッツ(Massachusetts)、オレゴン(Oregon)、ワシントン(Washington)、ケンタッキー(Kentucky)の各州での取り組みを例に挙げた。

 ロサンゼルス(Los Angeles)の学校区では、生徒が自分の認識する性別を証明するために精神科などの診断書を要求することはない。ニューヨーク(New York)市ではトランスジェンダーの生徒が男女別の体育の授業を受けるときは、性自認に合わせたクラスを選ぶことができる。