■すべてが泥の底に

 近くの川にも毎日、何万リットルもの泥が流れ込んでいる。ジャワ島のブラウィジャヤ大学(University of Brawijaya)による最近の研究など多くの調査によって、周辺一帯は重金属濃度が高いことが示されている。これによって河川に頼る生活をしている地域社会に深刻な影響が出ていると、環境保護活動家たちは警告する。

 インドネシア環境フォーラム(Indonesian Forum for the Environment)のレレ・クリスタント(Rere Christanto)氏は「水や沈殿物だけではなく、魚も汚染されている」と言う。「その魚を食べる人たちも影響を受ける。本当に危険だ。泥の中に大量の重金属がある」

 被災地の近くに住む人々は健康問題や、土地と河川の汚染を訴えている。泥をせき止める堤防の近くに住むマクスリさんは、家の水がよく黄ばんだり異臭を放ったりするのに、損害賠償の対象になっていないとAFPに語った。

 噴出口では泥が湧き出るたびに、観光客たちがはしゃいだ声を上げている。ガイドは母なる自然に向かって、観光客のためにもっと泥を噴き出せなどと冗談交じりに合いの手を入れる。だが観光客が去ると、その場のムードは一変、重い空気に包まれる。泥火山ツアーは、一部の住民の生活の足しにはなっているが、現実は厳しい。

 泥が噴出する前、スカンプトさんは家具工場で安定した職に就き、幸せな暮らしを送っていた。今は観光客を被災地まで送迎して、わずかな金を稼いでいる。彼は車を止め、かつて自分の村があった場所を指さした。そこには、泥の山から突き出た崩れた壁しか見えなかった。「モスク、学校、寄宿舎、すべて失われてしまった」と彼は語った。(c)AFP/Nick Perry