【5月26日 AFPBB News】本物と見まがうリアルなボディーペインティングで国内外から注目される若手アーティスト、チョーヒカル(Hikaru Cho)。彼女の初個展「SUPER FLASH」が26日から、東京・渋谷で開催される。作品のモデルを務めるのはロックバンドRIZEのベーシストのKenKenやモデルのアリスムカイデ(Aris Mukaide)ら。鑑賞者たちは作品に顔を近づけてそのリアルな筆致を確かめていた。

都内で開催されているチョーヒカルの個展で展示されたボディーペインティング作品(2016年5月25日撮影)。(c)AFPBB News/Yoko Akiyoshi

 4月中旬、個展で展示する新作を撮影するため、チョーは使い古したトランクにいっぱいの画材を詰めて都内のスタジオに現れた。中からアクリル絵の具に筆洗バケツ、そして20本ほどの絵筆を取り出し、さらにラフスケッチをテーブルに並べ、スマートフォンで音楽を流す。凝った作風とは裏腹に、準備はあっけないほどシンプルだった。

 東京都出身のチョーは今春、武蔵野美術大学(Musashino Art University)を卒業したばかりだ。アーティストとして独立するか、就職活動をするか迷いもあり、しばらくは将来が不安で泣き暮らしたと言うが「一回やれるまでやろうと決心がついた」とすがすがしい表情を見せる。時にBGMに合わせて踊ったり、モデルと恋愛話に花を咲かせたりしながら、チョーはリラックスした様子でモデルの肌に筆を走らせていく。

ボディーペインティングのための画材をトランクから取り出すチョーヒカル(2016年5月25日撮影)。(c)AFPBB News/Yoko Akiyoshi

■ハイパーリアルな肉体性

 もともと絵を描くのが好きな少女だった。ボディーペイントを始めたのは、「承認欲求のかたまり」だった18~19歳のころ。たまたま紙を切らした際に、自分の手の上に絵を描いたことがきっかけだった。その作品をツイッター(Twitter)に投稿したところ大きな話題を呼び、企業や出版社からも声がかかった。現在は広告ビジュアルなども手がける人気アーティストとなり、2015年には初の作品集を刊行した。

 23歳のチョーは、複数のSNSアカウントを使いこなすデジタルネイティブ世代。だが、その手法は完全なアナログだ。CG(コンピューターグラフィックス)だと思われると反響が薄くなるので、あえて筆遣いを作品に残すこともある。「人は、自分と同じ人間が作ったものに感動する。描く必要がない時代だけれど、私はボディーペイントを通してアナログの力を再確認している」。

チョーヒカルの作品「COMPLEX 複雑」(model:sioux/Photographer:YOU ISHII)(c) Hikaru Cho

 もちろん人体をキャンバスにするボディーペイントには、苦労がつきものだ。体のちょっとした動きで絵の具がひび割れてしまうし、紙のように絵の具をにじませるのも難しい。だが肉体が介在することで、鑑賞者が個人的な感情や経験を重ね合わせられるのもボディーペイントの魅力であり、その生々しい感覚こそが彼女の作品の強みだ。また、肉体の内側をさらけ出すような独特の作風は、「人間は言ってることと、思ってることがあまりにも違う」という日ごろ感じる違和感を反映させたものだという。「グロテスクだとよく言われるが、目に見えないものが見えるのは最高だと思う」

■ネガティブをポジティブに反転

「見た目だけじゃ分からない」のは作品だけではない。美人アーティストとして世間からは注目されるが、「自分が嫌いで、人間が嫌い」というチョーは「なんだこの世界は? と思うとき」や「誰かを殴りたくなるとき」に創作意欲がわくという。「たとえば彼氏と別れたときなんかに、一番たくさん作品が作れる」とチョーは笑う。しかしネガティブな感情から発信した作品も、ポジティブに受け入れられることを、多くの反応から学んできた。「絵を描くことは、自身にとってもセラピーのような作用がある。脳みそが空っぽになって気持ちいい」。そうつぶやきながら走らせる筆には、すこしの迷いも見られなかった。

展覧会レセプションでのチョーヒカル(2016年5月25日撮影)。(c)AFPBB News/Yoko Akiyoshi

 個展では、「自分」をテーマに、ボディーペインティング写真9点に加え、立体や映像作品など新作も多数展示する。この展覧会が「現役美大生」の肩書から卒業し、プロのアーティストとして踏み出す第一歩だ。「もう学生という立場には戻れない。フルタイムで頑張っていかなきゃと覚悟を決めた」

 とにかく作り続けることが目標という23歳は、プレッシャーをはねのけ、新たな一章を鮮やかに描き始めた。(c) AFPBB News/Fuyuko Tsuji