【5月31日 AFP】格闘技は世界中でブームとなっているが、イスラム過激派になる危険性のある人物を追うフランスの情報機関にとって、格闘技を教えるジムは警戒すべき対象になっている。

 郊外の貧困地域に立地し、活動を監視するしっかりとした組織もないような総合格闘技や柔道、キックボクシングなどのジムは、過激派の思想教育や訓練にうってつけの場所だとの批判もある。

 書籍「Sport, The Fault In State Security(日本語訳:スポーツ、国家の安全における盲点)」の著者であるメデリック・シャピトー(Mederic Chapitaux)氏は、AFPのインタビューに応じ、この問題に警戒すべきはフランスだけではないと指摘する。

 元憲兵で、現在はコンタクトスポーツ連盟のテクニカル・ディレクターを務める同氏によると、「これは国家、欧州、そして世界レベルの問題」だという。

 130人の犠牲者を出した昨年11月13日のパリ(Paris)同時襲撃事件の直前、情報機関のメモが流出した。メモは、郊外で行われているアマチュアスポーツ、特に格闘技ジムの過激化について警告していた。

 パトリック・カネール(Patrick Kanner)都市・青少年・スポーツ相はその後、フランスはそのリスクを完全に「過小評価していた」と認め、スポーツ省は過激化に対抗できるよう指導者教育を強化する計画をスタートさせた。

 シャピトー氏は、スポーツの指導者が過激派グループのリクルーターとなるケースは少なくないと指摘。指導者になるための資格はないに等しいとしながらも、「危険は差し迫っている。スポーツの指導者は精神と身体に影響を及ぼすから」と訴えた。

 なかでも格闘技はジハード(聖戦)の準備にうってつけだ。同氏は著作で、フランス体育教育の先駆者であるジョルジュ・エベル(Georges Hebert)氏の「役立つためには強くあれ」というスローガンが、過激派に受け継がれてしまったと記している。

 格闘技教室への批判で取り上げられるのが、東部ブザンソン(Besancon)のジムに所属していた、ヤシン・サルヒ(Yassin Salhi)容疑者が起こした事件だ。

 2015年6月、リヨン(Lyon)近郊のガス工場で配送業務の運転者として働いていたサルヒ容疑者は、雇用主だったエルベ・コルナラ(Herve Cornara)さんを襲撃。頭部を切断して敷地の外側にさらし、イスラム過激派の旗で囲んだ。同容疑者はその後逮捕され、拘留施設の独房で自殺した。

 この問題には、格闘教室の経営者たちも頭を悩ませている。

「多くの傷つきやすい若者にとって、ジムは第二の家だ」と話すのは、パリのある総合格闘技教室のオーナーだ。「ここで若者たちが勧誘されるのを見たことがあるが、私は彼らを守ってきた」という。

 フランス柔道連盟のジャン・リュック・ルージェ(Jean-Luc Rouge)会長は、最も大きな問題は、少数流派の格闘技だと指摘。「これらは主流派でなく、多くの場合、指導者がボランティアだ」と述べた。(c)AFP/Françoise CHAPTAL