【5月20日 AFP】富豪のドナルド・トランプ(Donald Trump)氏は、メディアに関わった経験とエスタブリッシュメントに対する共和党有権者の怒りを利用して、政治の初心者としては第2次世界大戦(World War II)の英雄ドワイト・アイゼンハワー(Dwight Eisenhower)が1952年に成し遂げて以来初めて、共和党の指名候補になろうとしている。

 共和党は2010年の時点で既に、旧来の政治の打倒を目指して台頭した保守強硬派「ティーパーティー(茶会、Tea Party)」が席巻。共和・民主両党とも古参の政治家が新顔に置き換わりつつあった。

 最終的に共和党は総じてティーパーティーの主張を受け入れたが、トランプ氏は党をさらに新たな段階に突入させ、当初は見込みがなさそうに見えた自らの選挙運動の中心に有権者の怒りを据えた。

 米首都ワシントン(Washington D.C.)にあるアメリカン大学(American University)の「議会・大統領研究センター(Center for Congressional and Presidential Studies)」のジェームズ・サーバー(James Thurber)所長は「国内の環境は、極右の怒りが支配的になっている」とAFPに語った。

 サーバー所長は「エスタブリッシュメントはやると言ったこと、つまり小さな政府の実現や、(バラク・オバマ(Barack Obama)大統領が看板政策として成立させた)医療費負担適正化法(Affordable Care Act)の撤廃、同性婚や同性愛者の権利問題や各種の社会問題でのリベラルな動きの阻止といったことをやっていない」ことに有権者は怒っていると指摘する。「トランプ氏はユニークだ。説明しづらいが、取り残されたと感じている怒れる極右がトランプ氏に投票しているのは確かだ」

 共和党の党組織も──おそらく不用意に──直接トランプ氏の人気上昇に貢献した。トランプ氏はオバマ大統領の最初の任期中に、オバマ氏が米国で生まれたかどうかを疑問視し大統領になる資格はないと主張するいわゆる「バーサー(Birther)運動」を擁護した。

「共和党はこれを見て党の基盤を活性化する方法だと思ったのだ。短期的にはトランプを止めるためにほとんど何もしなかった」と、米ワシントンのシンクタンク「ブルッキングス研究所(Brookings Institution)」のジョン・フーダック(John Hudak)シニアフェローは言う。

「これでドナルド・トランプは共和党内の有力者になった。今や共和党の多くの人が、トランプを有力者にしてしまったことを悔やんでいる」とフーダック氏は語る。「トランプ氏は、共和党が短期的な利益にはまって長期的な配慮をしなかったことの表れだ」