■歴史に「意味はない」

「10年間の惨劇の中、広西チワン族自治区では無数の人々が命を落としたのみならず、ぞっとするような残酷行為と悪意が吹き荒れた」――この調査団の元メンバーは、未公表のままの報告書草案にこう書いている。AFPが確認した草案には「首切りや殴打、生き埋め、石打ち、水責め、釜ゆで、集団虐殺、内臓の抜き出し、心臓や肝臓、性器の切り取り、肉のそぎ落とし、ダイナマイトでの爆破など、あらゆる方法が使われた」とあった。

 1968年には、中学校の生徒たちが地理の講師を殴り殺した後、遺体を川辺に運び、別の教師に強要して心臓と肝臓を取り出させる事件があった。学校に戻った生徒たちは臓器を焼いて食べたという。現在、この中学校は移転しており、現役の生徒たちに聞いても事件は知らないと首を振る。地元住民らも、知らないと答えるか、口を閉ざすかのどちらかだ。

 事件について議論することを望むごく一部の人々は、記憶が風化する中、町は過去から逃れることに必死だと話す。ここ数年で急激に発展する武宣県にとって、歴史は「何の意味も持たない」のだ、と。

■破られた沈黙と当局の抑圧

 ある中国当局者の推計では最大15万人の犠牲者を出したとされる広西チワン族自治区での大虐殺のうわさは、その後15年にわたって中国全土でささやかれ、ついに当局が調査団を派遣するに至った。しかし、調査報告書が公表されることはなかった。

 外部が事件について知ったのは、ジャーナリストの鄭義(Zheng Yi)氏が1989年の天安門事件後にひそかに資料を国外に持ち出し、著作「Scarlet Memorial(邦題:食人宴席)」を出版してからだ。同書は中国本土では発行禁止とされている。

 近年になって調査団の元高官も、中国国内での事件に関する認識を深めようと改革派の中国誌に調査結果に関する記事を寄せたが、当局によってもみ消されたという。この高官は、地元の元共産党幹部から「反党、反社会主義、反毛沢東主義」だと中央に告発され、自己批判と誤りの修正、謝罪を要求されたとAFPに語った。

 今、中国政府はメディアや世論の統制を強めていると、この高官は言う。「党の権威を確立するため、世論統制を行っているのは明白だ」。文革開始50年の節目に、党の公式行事は予定されていない。専門家は、当時の回想によって党の正当性が損なわれるのを指導部は恐れていると指摘する。

 知識と議論に対する抑圧に、現在米国に居住する鄭氏は懸念を強めている。「掘り下げた歴史分析を中国政府が頑として容認しない現状では、何らかの教訓を得たと言うことは不可能だ」と鄭氏はAFPに話した。(c)AFP/Benjamin CARLSON