■「帰って皿でも洗ってろ」

 アルゼンチンで審判養成学校の責任者を務める人物は、「当面の間、女性審判が主に担当するのは、女子サッカーのほか、ユースチームやリザーブチーム、もしくはフットサルです」と話す。

 一方、ペルーの審判委は、システムが性差別主義であることを否定しており、FIFAや南米サッカー連盟(CONMEBOL)が設けた男性審判用の試験に合格すれば、誰でも男子サッカーの仕事を任せられると話している。

 男子サッカーの審判になるには、フィールドを縦横無尽に駆け回るトップ選手に引けを取らない体力が必要とされており、チリで女性副審を務める32歳のロレト・トロサ(Loreto Toloza)氏は、「男子サッカーは非常にスピードがあり、選手は高いスキルを持っています」と話している。

 たとえテストに合格しても、女性審判にとっては新たな試練が始まる。エンリケス氏によれば、観客席から浴びせられる最も悪質な侮辱は女性サポーターからのものである一方で、男性サポーターからは、「副審を家に連れて帰りたいぜ」とやじられることもあるという。

 ピッチ上での扱いも、決して恵まれているとはいえない。

 2004年にメキシコのトップリーグで史上初の女性審判となったビルヒニア・トバル(Virginia Tovar)氏は、当時のスター選手クアウテモク・ブランコ(Cuauhtemoc Blanco)から、「帰って皿でも洗ってろ」と罵倒されたと報じられた。

 アルゼンチンのサロメ・ディ・イオリオ(Salome di Iorio)氏も、試合で手帳を取り出した際に、選手から自分たちの電話番号を書き留めるように言われたり、他の選手から唾を吐かれたりしたこともあったという。

 暴言にさらされる女性審判の仕事は、体力的な試練と同時に精神的な苦痛も伴う。

 ペルーの女性審判であるヨアンナ・ベガ(Johanna Vega)氏は、「女性審判のことが気に入らず、その仕事を受け入れられない選手もいる」と明かし、「ピッチ上では真剣です。侮辱に耐えるためには、『精神分析医』になる必要があります」とこぼした。