■カギとなった2つのメカニズム

 だが、南極に関する数値の低さは、見解の相違よりも、むしろ知識の欠落と深い関係があった。

 例えば、12万5000年前と300万年前に起きた過去の地球温暖期をめぐっては、当時南極で実際に何が起きたのかは分かっておらず、長年の謎となっている。これらの温暖期には、気温が現在よりわずかに上昇したことで、海洋が今日のものより6~10メートル高い水準にまで上昇した。ただ、「どちらの場合も、南極氷床は海面上昇の主要因として関与したとみなされており、これは南極氷床が持つ将来の脆弱性を示唆している」と論文は指摘している。

 南極は北極に比べてはるかに寒冷なため、融解の影響を受けにくいと考えられる。そのため、崩壊に至った正確な仕組みについても謎のままだった。

 しかし今回の研究で、デコント氏と米ペンシルベニア州立大学(Pennsylvania State University)の気象学者のデービッド・ポラード(David Pollard)氏の研究チームは、これまでの研究成果に基づき、この謎を解くカギとなると思われる2つのメカニズムを組み入れ、新たなコンピューターモデルを作成した。

 一つは、「水圧破砕」と呼ばれるプロセスだ。

 水やビールが入った瓶に蓋をして冷凍庫に入れると、内部の液体が膨張して瓶が割れてしまう──10代の若者なら誰でもが知っている現象だが、ドイツ・ポツダム気候影響研究所(Potsdam Institute for Climate Impact Research)の氷床動力学に関する専門家アンダース・リーバーマン(Anders Levermann)氏は、「これこそが、ここで起きたことだ」と語る。同氏は、最新版IPCC報告書の海水位に関する章の主執筆者である。

 今回の研究についてAFPの取材に応じたレベルマン氏は、融解水が、氷床内にあるクレバス(氷の割れ目)の深部に浸透すると、それが膨張して氷を割り海の方向に氷を押しやるのだと説明した。

 科学者らはこれまで、陸地の上にある氷床から突出した部分に対する海水温上昇の影響に研究の重点を置いていた。だが、氷床上部でも、ある程度の融解を引き起こすのに十分なレベルにまで、気温が上昇していることが明らかになっている。