■自分だけの「一点物」

 繊維会社のセーレン(Seiren)は、これまでカーテンや車の内装などを手掛けてきた。しかし最近では、アパレル部門の改革の必要性を認識しており、ファッションとデジタル技術のノウハウを融合させ、手軽にカスタマイズ可能な服のラインを立ち上げている。

 昨年9月、都内の大手百貨店、高島屋(Takashimaya)にセーレンのブランド「ビスコテックス(Viscotecs)」が登場した。ここでは、カメラが設置された試着室でバーチャルに試着ができる。

 試着ではまず、利用者を撮影し、そのイメージがタブレットに送信される。このイメージを見ながら、シルエットや生地、色、丈など、無数にあるオプションの中から好みのものを選んでデザインし、自分だけの一点物のドレスを発注することができる。

 デザインのデータはセーレンの工場に送られる。ここで型紙を切り出す機械やインクジェットプリンターなどを使い、約3週間で服を仕上げる。

 この過程はファッション業界を一変させる可能性を秘めている。最終的には値引きして売るか、廃棄処分するかしかない売れ残り在庫の削減につながるからだ。セーレン広報によると、インクジェットプリンターを使用することで、従来の染色法に比べて水とエネルギーの使用量を少なくとも80%減らすことができるという。

 しかし、ドレスの価格帯は6万5000~8万円。手軽に利用できるブランドとは言い難い。高島屋の広報担当は、「全く新しいシステムだが、少しずつお客様の間での認知度を上げていけば、売り上げも伸びると思う」とコメントした。

 ニットデザイナーの大江は、業界が活気を取り戻すことができたのは技術とテクノロジーへの投資があってこそと考えているようだ。

「言葉でうまく説明できなくても、商品が代わりにその品質を語ってくれる。祖父がはじめた米富繊維という会社は64年の歴史がある。米富にしかできない技術やテクノロジーが商品の形になって伝わっているのかなと思う」

(c)AFP/Ammu KANNAMPILLY