■歴史からの警告

 埼玉県からツアーに参加した42歳の女性は、自分が目にした惨状に「衝撃を受けた」と語った。「テレビとか新聞では『復興は進んでいる』『生活が戻りつつある』って報道しているけど、現実は何も変わってない」

 浪江町の吉沢正巳(Masami Yoshizawa)さんは、今も浪江町で300頭ほどの牛を飼育し続けている。吉沢さんは政府が出した殺処分の指示に従わず、牛たちは放射性物質に汚染された牧草を食べて生きている。

 吉沢さんは牛の群れを観光客らに見せながら、牛を飼い続けているのは東京電力と政府に対する抗議の気持ちからだと説明した。そして「世界中の人に言いたい。私が経験したことが、あなたにも起こりうるんだと」と訴えた。

 埼玉県在住の英語教師トム・ブリッジズ(Tom Bridges)さんは、ツアーを通して被災者の怒りと不満を知ることができたと話し、「楽しい旅ではない。だが必要な旅だ」と語った。

 一方、愛する人を失った悲しみから立ち直れず、自宅に戻れる望みもない住民らの中には、自分たちの故郷に観光客が来たのを見て複雑な心境だと言う人たちもいる。

 このような反応に対し、英セントラル・ランカシャー大学(University of Central Lancashire)ダークツーリズム研究所のフィリップ・ストーン(Philip Stone)事務局長は、災害の生々しい残影は「歴史からの警告」という役割を果たすと指摘している。

 福島第1原発から約35キロ北の福島県相馬市出身の新妻さんは以前から原発建設には反対だったにもかかわらず、震災前に反原発運動に積極的に関わってこなかったという後悔の念にさいなまれているという。

「もう少し真面目にやっておけば…」「ガイドをすることは償いの気持ちもある」と新妻さんは語った。

(c)AFP/Shingo ITO