【3月4日 AFP】8歳の少女は、何度も売り渡されて繰り返しレイプされた。別の少女は、自分を拘束していたイスラム過激派の男たちに触れさせたくない一心で、自分の体に火をつけた──。

 これらは、かつてイラクでイスラム過激派組織「イスラム国(IS)」の奴隷として拘束されていたというヤジディー教徒の女性や少女1400人以上から、ドイツ人のヤン・イルハン・キジルハン(Jan Ilhan Kizilhan)医師が直接耳にした悲惨極まりない話の一部にすぎない。

「彼女たちは地獄を見てきた」と語るキジルハン医師は、1100人の女性・少女らをドイツへ連れて行き、彼女たちが負った身体的・精神的な深い傷を癒やす手助けを行うプロジェクトを率いている。プロジェクトを運営しているのは、独南西部にあるバーデン・ビュルテンベルク(Baden-Wuerttemberg)州の州政府だ。昨年4月から、トラウマ状態に陥った被害者たちをイラク北部からドイツに飛行機で移送している。先月初めには残っていた最後のグループもドイツ入りした。

■トラウマから自分に火放つ

 国連(UN)はイラクの宗教的少数派、ヤジディー教徒を標的としたISの攻撃がジェノサイド(集団虐殺)に相当する可能性を指摘している。

 キジルハン医師は「まさに緊急事態だ」と言い、他の国や州に対し、バーデン・ビュルテンベルク州の取り組みにならうよう呼び掛けている。同州はこのプロジェクトに9500万ユーロ(約120億円)の予算を計上。ドイツに招くことがどういった被害者にとって最も役立つか、キジルハン医師らのチームに判断を依頼した。医師が注目したのは、ヤジディーの女性たちの窮状だった。

 ヤジディーの信仰はISにさげすまれており、今もヤジディーの女性3800人がISに拘束されているとみられる。何とかそこから抜け出して元の場所へ戻ったとしても、極めて保守的なヤジディー社会には、言語を絶する恐怖を体験した女性たちのための心のケアは皆無に等しく、ISによって性的暴行を受け、時に妊娠までさせられた女性たちを恥辱とみなす風潮さえある。