■「『ママ』よりも先に『パパ』」

 キムさんが5歳の娘と3歳の息子と一緒に過ごす時間を選んだ大きな理由は、韓国の厳しい勤労文化にある。「夜の8時か9時に帰宅できればまだいいほうで、そんな日もほとんどなかった。子供たちと遊んだり、本を読んでやったりする時間を見つけるなんて不可能だった」とキムさんは言う。そう思っているのはキムさんだけではない。韓国では2015年上半期に育児休暇を取得した父親の数は2212人で、絶対数では少ないものの、前年と比較して40%増加している。

 とはいえ、育児休暇を申請する父親の割合はまだ全体のわずか5%。スウェーデンなど40%を超えている国とは比べものにならない。韓国の最近の調査では、80%近くの父親が育児休暇を取りたいと希望していた。だがそのうち半数が、解雇や復帰したときの左遷のリスクを恐れていた。

 財界でも変化の必要性を受け入れる兆しはある。サムスン(Samsung)や現代(Hyundai)グループのように、長時間労働と保守的な労働文化で知られる大財閥でさえ変化を受け入れようとしている。

 現代産業開発(Hyundai Development)の部長、イ・ドンフンさん(38)は妻が1年間の産休を終えたとき、双子の子供のために1年間育休を取って主夫になることを決めた。彼の会社の40年の歴史の中で、そこまで長い育児休暇を取った男性は初めてだったが、上司はほとんど反対することなく認めてくれたという。家族や友人たちは、それが正しい判断なのかと懐疑的だったが、イさんは娘と息子と過ごす時間は何事にも代えがたいと語る。

「言葉を話し始めたときには、『ママ』よりも先に『パパ』と言ったんだ」と、イさんは大声を上げて笑った。「私の腕の中で子供がほほ笑みかけてきて『パパ』と言う瞬間は、何にも勝る価値がある」

(c)AFP/Jung Ha-Won