■根拠のない疑惑

 シャマさんとシャザードさんのような宗教的少数派を保護するため、当局が異例の強硬策を講じても、マリヤさんの家族の不安感は消えなかった。

 保守的なイスラム教国であるパキスタンの警察はこれまで、イスラム教徒を刺激することを恐れ、集団暴行に加わる人々の取り締まりに消極的だった。だが、14年にイスラム武装勢力「パキスタンのタリバン運動(Tehreek-e-Taliban PakistanTTP)」が学校を襲撃し、生徒ら150人超を殺害した事件を機に、政府は本格的に宗教的過激派の取り締まりに乗り出したとみられ、今後、状況が徐々に変わっていく可能性もある。

 パキスタンの裁判所は最近、宗教的冒涜に対し、これまでよりも穏健な立場を取るようになった。冤罪(えんざい)防止にも努めており、冒涜の罪で3年間収容されていた女性が釈放された例もある。

 キリスト教徒夫婦殺害事件では、れんが工場の所有者を含む100人超が逮捕され、現在も身柄を拘束されている。工場の所有者が、夫婦が借金を踏み倒そうとしていると疑ったために冒涜のうわさが広まった。それで、逃げようとした夫婦を所有者が監禁したとされている。また、工場の幹部5人と、冒涜のうわさを広め、群衆に襲撃をけしかけたとされるイスラム聖職者2人も拘束されている。

 パキスタンの冒涜法は、旧宗主国の英国から引き継いだものだ。英国は、インドとパキスタンがかつて一つの国だった時代に、社会の調和を保つためにこの法律を制定した。下って1980年代にジアウル・ハク(Zia-ul-Haq)大統領の軍事独裁政権の下、新たな条項が導入された。この条項でイスラム教の地位は他のすべての宗教の上に置かれ、イスラム教化戦略の一環として死刑が導入された。

 冒涜法は個人的な復讐のために悪用されることが多々あり、特に少数派に対する暴力をあおっているとの批判の声も上がっている。

■常に恐怖と隣り合わせ

 キリスト教徒の夫婦の身に起こったことは決して珍しいことではない。14年にはこの夫婦の他に少なくとも7人が、冒涜行為に加担したり関わったりしたとして、自警団に殺害された。15年はこうした事件は起こっていない。

 キリスト教徒の夫婦の事件では殺害後に冒涜の疑惑が事実無根だったことが判明したが、こうしたぬれぎぬもよくあることだ。

 シャザードさんの父親は心霊治療家で、さまざまな言語で書かれた書物を使用していた。シャザードさん夫婦は、事件の少し前に亡くなった父親の遺品の書物を燃やしていたのだった。

 シャザードさん一家の弁護士は、裁判の進行は遅いが「100%勝利」し、殺人犯たちはその罪を償うことになるだろうと確信している。しかしまた、法改正が実現されなければ、真の変化は起きないとも述べた。11年に冒涜法を非難した政治家2人が殺害されて以来、パキスタン政府は法改正を推進してこなかった。法改正が実現されるまで「冒涜はわれわれに差し迫る刀であり続ける」と弁護士は語った。(c)AFP/Caroline Nelly PERROT