■ガソリンスタンドが「避難所」

 朝9時に集合した車列は、州都シウダビクトリア(Ciudad Victoria)まで約300キロの道のりを、トイレ休憩もなしにノンストップで走り抜ける。警察官たちは車が走り出すと同時にアサルトライフルを構え、車間距離もほとんどあけない。速度は時速100キロを維持し、区間によってはさらにスピードを上げる。

 ただ、パトカーの先導なしに通行しようとする怖いもの知らずのドライバーもいるため、当局は高速101号線上のガソリンスタンドに「避難所」を設けている。ドライバーが安心してガソリンを補給し休憩を取れるよう、警察や軍が警備に当たっている。

 パトカーが先導する一行は、サンフェルナンド(San Fernando)に近づくにつれて速度を上げた。ルート上でも最も危険な区間で、ここでは2010年8月に中南米からの移民72人が殺害される事件が起きた。「セタス」の犯行とみられている。

 やがてシウダビクトリアのそばまでくると、先頭のパトカーを運転する警察官が窓から手を出して振った。護衛終了の合図だ。

■「消えた」家族たち

 タマウリパス州で行方が分からなくなった人々の家族や友人でつくる会の創設者兼代表を務めるギエルモ・グティエレス・リエストラ(Guillermo Gutierrez Riestra)氏によると、実際の行方不明者数は、当局の公式発表の2倍に相当する1万1000人に上るという。

 グティエレス氏自身も2011年、当時19歳の娘が誘拐された。「ほとんどが、高速道路(101号線)で行方不明になる。セタスの幹部が逮捕されたとき、50人分の運転免許証が押収された。これも、誘拐事件の大半が高速道路上で起きていることを示している」

「(被害者は)トラック運転手かもしれないし、肉体労働者かもしれない。オフィスワーカーや学者、移民だったかも」――だが、被害届を出す人はいないとグティエレス氏は嘆いた。(c)AFP/Sofia MISELEM