【11月23日 AFP】ロシアのエルミタージュ美術館(Hermitage Museum)の来館者たちを1世紀以上にわたり驚かせてきたのはその貴重なコレクションと、サンクトペテルブルク(Saint Petersburg)の宮殿の広々とした地下室をうろついている何十匹ものネコたちだ。

 そのネコたちの主な仕事は、招かれざる客、つまりネズミたちの退治だ。ロシア最大の美術館が誇る世界でも有数の長い歴史に、70匹余りの「ネコ部隊」が深い爪あとを残してきた。だから彼らの繁栄のためにささげられた特別な課まであるのだ。「私たちのネコは私たちのコレクションと同じぐらい有名だ」と同課を統括するイリーナ・ポポベッツ(Irina Popovets)氏(45)は言う。

 毎朝、世界各国の芸術愛好家たちが、古代エジプトやルネサンス期の絵画からセザンヌ(Cezanne)やゴーギャン(Gauguin)、ドガ(Degas)といった近代の巨匠たちの作品が所蔵されているエルミタージュ美術館の門の前に到着する。

 一方、ポポベッツ氏は足元でのどをごろごろ鳴らしているネコたちに餌をやる。色も血統も気性もさまざまなネコたちは、彼女を見るといつも大喜びする。彼女のオフィスは、ネコたちがいる広大な地下世界の近くに位置し、壁には大好きなネコたちの「肖像」が飾られている。「こっそりとネコをもってくる人がよくいる」と言う。美術館では、ネコの増加に苦心することもあるという。

 エルミタージュにネコが初めて住みついたのは、一般公開される美術館になった1850年代よりずっと前のことだ。

 だがネコたちは、1941~44年のナチス・ドイツ軍によるレニングラード(Leningrad、旧ソ連時代のサンクトペテルブルクの呼称)包囲を生き延びることはできなかった。兵糧攻めにあった人々は、生き延びるために自分たちのペットを食べるよりほかに選択肢がなかった。

 宮殿を守るネコたちは、第2次世界大戦(World War II)が終わったときに復活したと伝えられている。ロシア全土から列車で新兵が到着した時期だ。

 1960年代になるとエルミタージュのネコは増えすぎ、当局は処分するのが最善策だと判断したが、今度はネズミの数が増加し、数年後にはネコたちがまた宮殿に居場所を見つけることになった。

 ネコたちは、6万点以上の名画を展示している美術館の1000室ものホールには入れないが、ネズミとの戦いには勝利した。しかもネコたち自体が、毎年約300万人が来館する美術館の人気者になっている。同館のみやげもの店には、ネコの写真が付いたみやげやポストカードがあり、飛ぶように売れている。

 美術館にはネコに感謝する祝日もあり、サンクトペテルブルクの住民がネコをペットとして引き取れるウェブサイトも用意した。ポポベッツ氏は、サイトで見た子猫を引き取りたいという男性からの電話を受けてこう答えた。「はい、エルミタージュのネコを引き取ることは名誉あることです」(c)AFP/Marina KORENEVA