■インド──「ライト志向」になったギー

 凝乳(ぎょうにゅう)とチャツネが詰まった揚げパン料理、ラージ・カチョリはもう食べない──シーマ・ムススワミさん(48)はこの数年、脂肪分の多い料理を減らすために必死に努力した。高脂肪食品、特にインドで広く愛されている澄ましバター、ギーの危険性を理解し、家族には健康に良いものを出すよう努めているという。

「栄養分が高くてスパイシーな食べ物は、私たちの文化の一部。でも、こうした食べ物を毎日食べてはいけないことは明らか」だという。ムススワミさんを取材した場所は、混雑したニューデリー(New Delhi)の「ハルディラム(Haldiram)」というレストラン。伝統的な屋台メニューを提供し、人気の高いファストフード店だ。

 しかし、インドでは肥満問題が増加するにつれ、低脂肪食品の重要性に対する認識が高まっている。肥満の進行速度は遅いが、研究によるとインドの肥満人口はここ数年で劇的に増加し、20年前の2倍以上にあたる少なくとも5000万人に達した。都会に住む人の最大50%が肥満に悩んでいるという。

 インドでは、カレーもギーの中に浮いた状態で供される。ギーはインド料理に不可欠な上、伝統的な民間薬や宗教的な祭祀(さいし)にも使われる。科学者らは最近、コレステロールを85%カットした低脂肪のギーを開発。健康に敏感な消費者の心をつかむことを期待している。

 インドの食品基準当局は先月、国内で販売される食品に対し、トランス脂肪酸の含有基準を各製品の5%に設定すると発表した。

 しかし、全国糖尿病・肥満・コレステロール基金(National Diabetes, Obesity and Cholesterol)会長のアヌープ・ミスラ(Anoop Misra)博士は、低所得層だけでなく、増加している数百万人の中流層の食習慣を変えるには、もっと積極的な対策が必要だと述べ「明日食べられないかもしれないから、今日のうちに食べておこうというのは、飢餓の時代に育った昔の世代から受け継いでしまった考え方だ」と指摘した。

 ミーナ・デビさん(65)は食習慣の変化を気にしない一人だ。夫は毎日、ギーがいっぱい入ったチキンやマトンのカレーを食べたがる。「私は牛飼いの神、クリシュナ(Lord Krishna)の土地の出身。だから毎日、ミルクやバター、ギーといった牛からできるものを食べる。おかげでいつも元気よ」(c)AFP/Trudy HARRIS/Anne KAURANEN