【11月10日 AFP】食品に含まれる脂肪分は、依然として憎むべき敵なのか、それとも親しみの持てる存在になったのか?意見は多岐にわたる。

 高脂肪食品を楽しむ人が増えているフィンランドでは、高脂肪食品が長年、不当に悪者扱いされてきたという主張が現れ、健康問題の専門家らを慌てさせている。一方、世界を見渡すとインドでは、肥満危機や糖尿病、コレステロールの問題に対処するために、高純度の精製バターであるギーを存分に使った皆が愛するスパイシーな高カロリー料理から、消費者を必死に引き離そうとしている。

■フィンランド──「名誉を回復」した脂肪

 2人の子どもを持つ母親であるフィンランド人のヨハンナ・アムネリンさん(39)は、ほとんどの栄養士のアドバイスとは正反対に、成分無調整の牛乳と本物のバターに変えて、10キロ減量したと主張している。

 アムネリンさんは加工食品に背を向け、高脂肪食品を選んだ数多くのフィンランド人の一人。高脂肪食品の方が、食品本来の姿により近く加工度が低いと信じているからだ。しかし専門家らは、こうした間違ったイメージの持たれ方に困惑している。

 脂肪について、アムネリンさんの考えが変わったのは5年前、無脂肪食品は実際にはそれほど健康に良くないと書かれているのを読んでからだ。「まず、無脂肪乳から成分無調整の全乳に変えてみたら、やせ始めたことに気付いた」という。

 90年代に成長期を過ごしたアムネリンさんの家族は、フィンランド政府の公式な栄養勧告に従い、無脂肪食品の熱心な信奉者だった。しかし今では、アムネリンさんと子どもたちは全乳しか飲まないし、本物のバターを食べている。「低脂肪乳を飲んでいると、いつもチョコレートやポテトチップスといったジャンクフードやおやつをものすごく食べたくなる。低脂肪食品では長時間、空腹を感じずにもたせることができない」という。

 フィンランド人の中には、アムネリンさんのように、脂肪は不当に悪者扱いされてきたと考える人もいれば、できる限り加工度が低くてよりおいしく、より信頼性が高い食べ物を求める人もいる。

 一方、医師たちは、バターやチーズの消費量が近年、急増していることにも落胆している。フィンランド国立天然資源研究所によると、フィンランド人の一人当たりの年間チーズ消費量は2007年には平均17.5キロだったが、2014年には26キロ近くに増加。同時期のバター消費量も、2.5キロから約4キロに跳ね上がっている。

 当局はこうした新たな傾向に懸念を示している。フィンランド心臓協会(Finnish Heart Association)の代表で、国家栄養評議会のメンバーでもあるマルヤーナ・ラハティコスキ(Marjaana Lahti-Koski)氏は、こうした傾向は憂慮すべき事態だとし「2007年まで国民のコレステロール値は低下傾向にあったが、2012年から状況は再び悪化し始めた。これは、飽和脂肪の消費が増加し始めた時期と一致する」と指摘した。同評議会は今も、低脂肪や無脂肪の乳製品や、不飽和脂肪酸である植物油やマーガリン、ナッツなどを推奨している。

 しかし、専門家の中にも、何千年間も人間の栄養源であってきた動物性脂肪は、近年のいわれのない悪評から解放されるべきだと主張する少数派が存在する。

 その中の一人、食物科学の元教授で、フィンランド最大手の酪農メーカーの研究部門を率いていたカリ・サルミネン(Kari Salminen)氏は「低脂肪製品に対する市場ニーズが高かった時に、こうした製品の開発に首までどっぷり浸かっていた。しかし、低脂肪製品が健康に良いとは思わないし、自分では食べない」と語っている。最近の学術研究によれば、飽和脂肪酸と心血管疾患との間に因果関係があるとする証拠は見つからなかったという。