■これまでにない「親密」さ

 イベントが始まると、参加者は一切話すことができなくなるため、その身振りや手振り、笑顔やしかめつらの一つ一つが強調される。コミュニケーションは、これらの表情や体の動きによって図られる。

 開始直後には、カール・ダグラス(Carl Douglas)のヒット曲「吼えろ!ドラゴン(Kung Fu Fighting)」に合わせて、各ペアが格闘技の動きをまねてお互いに見せ合っていた。あるペアでは、筋肉隆々の男性が二の腕を誇らしげに掲げると、一方の女性は忍者のポーズでこれに応じていた。

 しかし、英バンド「シネマティック・オーケストラ(Cinematic Orchestra)」のしっとりとした曲が流れると同時にイベントは第2幕へと突入。会場の雰囲気はより落ち着いた空気に包まれ、参加者たちは90秒で相手を魅了するための準備に取り掛かった。

 参加者の一人で、普段は教職に就いているという女性のルーシーさんは、若い男性の向かいに座って膝に手を置くと、頭を下げて一回深呼吸をした。そして、弱々しく視線を相手の男性へと向けた。

 その一方、堂々とした態度で座るブロンドヘアのインディアさんは、誘惑するような表情で相手の男性を見つめていた。 ペアの男性は、称賛と欲望が入り交じった顔をしていたが、制限時間を告げるベルが鳴ると同時にため息をついた。

 たかが90秒間とはいえ、こわばった顔や恥ずかしげな表情が交錯する時間は、時に永遠に続くようにも感じられる。

 イベントが終りに近づいたころ、参加者たちの表情は、おおむね満足気だった。関係をより発展させたい相手がいた場合は、最後にそれを伝える。次に会う時には言葉を使うことも許されるだろう。(c)AFP