【10月6日 AFP】アジアで危険や困難の中、優れた取材活動を行ったジャーナリストにフランス通信(Agence France-PresseAFP)が贈る2015年の「ケイト・ウェブ賞(Kate Webb Prize)」を、タイ軍事政権下で摘発が増加した王室不敬罪について粘り強く強力な報道を行ったムティタ・チュアチャン(Mutita Chuachang)氏(33)が受賞した。

 ムティタ氏は、タイ語と英語の両方で配信されている同国のオンライン紙「プラチャタイ(Prachatai)」を活動の場に、不敬罪での摘発例を粘り強く記録してきた。

 タイでは国王、王妃、王位継承者や摂政に対する中傷などで有罪となった場合、訴因1件につき最高15年の刑を科される可能性がある。軍事政権下で不敬罪による起訴件数と刑期の長さは増大する傾向にある。今年8月には、インターネットに投稿したメッセージが王室の名誉棄損に当たるとされた男性に禁錮30年、2人の子どもがいる女性に禁錮28年の判決がそれぞれ言い渡された。

 2014年に強硬な王制主義の軍部が政権を握って以来、不敬罪の被告の多くは控訴権もないまま軍事法廷で秘密裏に裁かれている。また王室を頂点とした厳然たる階級社会のタイでは、不敬罪は社会的な非難の的になることも多い。

 そうした結果、タイの多くのジャーナリストや報道機関が不敬罪関連の報道を避ける傾向にある。しかしムティタ氏は、不敬罪事件が報道も記録もされずにいることをよしとせず、ともすれば葬られがちな事件について裁判所に公判日程や関連文書の開示を求め続けてきた。

 国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチ(HRW)は、執筆者の署名なしで掲載されたムティタさんの記事は、タイの不敬罪裁判の重要な情報源になっており、記者による「価値ある仕事だ」と高く評価している。

 なお、同賞の名前になっているケイト・ウェブは、07年に64歳で亡くなった元AFP特派員で、戦争・紛争や歴史的事件を伝え「大胆不敵な記者」と評されたが、優しさと共感にあふれた人柄で知られ、アジアの若いジャーナリストたちを指導した。(c)AFP