【9月29日 AFP】地球温暖化の現実がさまざまな打撃を与え始めている中、「自分の生活にはどう影響するのか?」という疑問がわくだろう。その答えは、職業や年齢、住んでいる場所などによって異なる。科学者たちは気温上昇を産業革命前と比べて2度以内に抑えなければならないと警鐘を鳴らしているが、その越えてはいけない一線に迫りつつある今、未来の気候変動のシナリオはいくつかある。

■今から15年後の世界各地

 時は2030年。あなたは中米・ニカラグアでコーヒー豆を栽培し、有機栽培作物の卸売業者にそれを販売する60歳の農民だ。2015年以降、世界のコーヒー豆需要は大幅に増加し、商品価格も3倍に跳ね上がった。だが商売は芳しくない。涼しい環境を求め、標高の高い農地を購入するために土地を手放したにもかかわらず、酷暑のせいであなたの作物は大打撃を受けた。単位面積当たりの収量だけではなく、豆の質も落ちた。世界に2000万世帯あるコーヒー豆農家の多くも同様の苦境に立たされているのが、せめてもの慰めだ。

 米フロリダ(Florida)州ウェストパームビーチ(West Palm Beach)。39歳の野心家の不動産弁護士のあなたは、100万ドル(約1億2000万円)相当で購入した自宅を3年前にハリケーン・ヒラリーの襲来で押し流されたが、仕事の景気は良く快適な生活を送っている。温暖化による海面上昇は過去15年で14センチにとどまったが、ハリケーン・ヒラリーの高潮災害による経済損失は5000億ドル(約60兆円)に上った。海抜1メートル未満の住宅などに対する連邦洪水保険を政府が打ち切ったため、不動産弁護士のあなたは対応しきれないほどの顧客を抱えている。顧客らは、民間の保険会社が保険金の支払いを逃れるために、破産を申し立てようとしていると訴えている。顧客が受け取れるだろう補償額は保険料1ドルにつきわずか20セントだが、あなたはしっかり弁護料を取っている。

 インドネシア・ジャワ(Java)島の港湾都市スラバヤ(Surabaya)の郊外では、あなたは以前、漁船に乗っていた漁師だ。現在は失業中。漁業は元々この地域の地場産業だったが、2020年代半ばに基盤が崩れてしまった。それ以前の段階ですでに、ムツやキハダマグロなど数種の水産資源は乱獲のために枯渇してしまっていた。その一方で海水温が上昇し、太平洋クロマグロやアジ類なども海水温が低い場所を求め、地元漁船が操業できる水域の外へ移動してしまった。失われた水産資源を補う新たな種の魚がこの地にやって来ることはなかった。

  フランス・アルプス(French Alps)では、あなたは標高1280メートルのスキーリゾートを所有するホテル経営者。2020年以降、3年のうち2年は、人工雪を作らなければならない状況が続いている。22年と28年は気温が高過ぎて、人工雪を降らせても営業を維持するのは困難だった。ただし、温暖化が思いがけずプラスに働いた面もある。毎年夏になると人々が地中海沿岸部の熱波を避けて代わりの避暑地を求めたため、夏の観光は上向いた。

 アフリカ、サハラ砂漠南縁に位置するサヘル(Sahel)地域。自給自足農業を営むあなたが暮らすマリ北東部のモプティ(Mopti)州にも、砂漠化が忍び寄っている。10年前、栽培する作物を雑穀から、耐乾性の遺伝子組み換え作物のソルガム(モロコシ)に切り替えた。切り替えは賢明な策だったが、乾燥は年々進んでおり、自分も家族もあとどれくらい持ちこたえられるか、不安を抱いている。今、飼っているヤギが死んでしまったら、すでにこの地を離れた村民を頼って首都バマコ(Bamako)に移り住むつもりだ。

 オーストラリアの居住地域の最南端、タスマニア(Tasmania)州にあるワイン用ブドウの栽培農家。タスマニアは今や、ピノ・ノワールやシャルドネの主産地として、フランス・ブルゴーニュ(Burgundy)地方と肩を並べるワインの名産地だ。シャンパン風の発泡ワインでも数々の大きな賞を受賞している。2度の気温上昇でこれほどの変化がもたらされるなんて驚きだ。タスマニアのタマール渓谷(Tamar Valley)産ワインの輸出は急増している。気温は昔の仏北部の産地と同様、ブドウ栽培に適した寒暖差だ。一方、ほんの15年前には理想的な産地だった仏北部は今、気温上昇のせいでブドウ栽培に不向きな土地になってしまった。

 中国・上海(Shanghai)。あなたは専門職の両親と23階建てのマンションに暮らす、7歳の一人っ子だ。2015年の12月、仏パリ(Paris)で開かれた気候変動対策に関する国際会議で世界195か国が、二酸化炭素(CO2)排出量を温暖化を食い止めることのできる水準まで大きく削減する方向で合意したが、あなたはその時には、まだ生まれてもいなかった。結局、合意は失敗に終わった。このままいけば、2100年までに気温が4度上昇する。22世紀を迎える時、あなたは77歳。そこまでたどり着けるよう幸運を祈る。(c)AFP/Marlowe HOOD