【9月26日 AFP】「人間でいることを休みたい」――そんな願いを持った英国人男性が、スイスのアルプス山脈(Swiss Alps)でヤギとして暮らした体験を語った。

 英ロンドン(London)出身のグラフィックアーティスト、トーマス・スウェイツ(Thomas Thwaite)さん(34)は、四足歩行できるように特別な人工装具を制作し、さらには、より「ヤギらしく」なるために、脳の中枢神経にも刺激を与える試みまで体験したという。

 目標は、人間でいるという経験がどれほど変化し得るかを確認することにあった。

「落ち込み気味で、人間でいることや、金もうけをしようとすることのややこしさに悩まされていたんです」と、スウェイツさんはプロジェクトを始めた理由をAFPに語った。

 ヤギになろうというひらめきを得たのは、親戚の飼い犬が「この世界にいるだけで喜びにあふれ、幸せそう」に見えたからで、スウェイツさんは「少しだけ動物になってみたい。人間でいることを休みたい、と思ったんです」と話した。

 スウェイツさんはロンドンにある世界的な医学研究支援団体「ウェルカム・トラスト(Wellcome Trust)」の協力を受け、人間がヤギになれる可能性、または、人間がどこまでヤギに近付けるかを、9か月間にわたって追究した。

 草を消化するのに役立つよう、偽物の胃を付けることも考えたが、健康上の問題が生じるとのアドバイスを受け、その案は断念した。だが、言葉を話さないヤギへの理解を深めようと、脳の言語中枢の神経活動を抑止するために、頭蓋骨の近くに外から電磁石を近づける経頭蓋磁気刺激も試してみたという。

 スウェイツさんは、ヤギの動きをまねるようにデザインされた義肢を装着し、ヤギの中で3日間、生活しながら、野山を駆け回った。

 しかし、四足歩行は簡単ではないことが分かったという。

「一番大変なのは、長時間にわたって腕で体重を支えなければならないことです。私たちの体はそういう風にはできてません」

 スウェイツさんは、今回のプロジェクトで、人生を違う視点から眺めてみることに挑戦するための議論が活発化することを期待している。来年4月には、自身の体験をつづった書籍「Goat Man: How I Took A Holiday From Being Human(ヤギ男:私はいかにして人間でいることから休暇を取ったか)」を出版する予定だという。(c)AFP/Antoine BOUTHIER