【9月16日 AFP】シリア人のムハンマドさん、ファイクさん、ジヤドさん、ビラルさんは、それぞれエンジニア、高校生、心臓専門医、会計士だ――少なくとも、約束の地「欧州」への長く危険な旅に出る前はそうだった。

 欧州に向けて歩みを進める数十万人の移民や難民は、必ずしも「極貧層」の出身というわけではない。多くは、戦火に見舞われる前は大学に通ったり安定した職業に就いたりしていた人たちだ。

 移民管理当局や多くの難民、そして周囲の人々によると、こうした傾向はとりわけシリア人に当てはまるという。2011年に始まった内戦で混乱に陥る以前、シリアには地域に有数の教育制度が整っていた。

 国際移住機関(International Organization for MigrationIOM)や国連(UN)と仕事をした実績もあるコンサルティング会社「Altai Consulting」の移住リサーチ部門の責任者は、「シリア人たちは、内戦前のような豊かな生活を送ることのできる新たな場所を求めている。内戦前のシリアは欧州の国々に非常によく似ていた。生活水準も国民の教育レベルも比較的高かった」と語る。

 ドイツの連邦移民難民局によると、2013年1月~2014年9月の間に国内で集計されたデータでは、同国に移住したシリア人の78%は、高学歴で中・上流階級の出身であることが明らかになっている。

 しかし、一部の人々や国境警備隊から敵意をむき出しにされながらも危険な渡航を経て、自身が選択した目的地にようやく到着したとしても、そこで待っているのは大きな失望という可能性もある。

 亡命希望者や難民のための仏団体「France Terre d'Asile」の社会統合部門の責任者は、「難民認定を受けたからといって、苦悩がなくなるわけではない」と述べ、医療サービスと社会的権利を付与され、さらに自身の資格を認められるまでの道のりは非常に険しく、一流の資格を持つ人々であっても、有する資格に合致しない仕事に就くケースが多いと説明した。

 そして、特筆すべき資格を持たない人々にとっては、さらに長い道のりとなる恐れがある。加えて、言葉の壁が問題となる場合もある。

 シリアのアレッポ(Aleppo)で電気技術関連の勉強をしていたというムハンマドさんは、現在、レストランで調理師として働いている。それでも、不満を漏らすことはなく、むしろ情熱を持って仕事に臨んでいる。

 ムハンマドさんは「われわれにとって欧州は、アサド政権下では決して訪れることのできない夢の場所だった。この夢が今、現実となっている」と語り、「湾岸諸国に何年も住んでいるいとこたちがいるが、彼らも今、欧州への移住を考えている」と続けた。(c)AFP