【9月15日 AFP】路線図が点灯し、列車がドイツに入ったことが知らされると、イラクの首都バグダッド(Baghdad)出身の難民、アハマドさん(27)と妻のアリアさん(26)に安堵(あんど)感と喜びがこみ上げてきた。

 生後4か月の赤ん坊、アダムちゃんを抱えた夫婦は、バルカン半島を通過する地獄のような旅をようやく切り抜けた。そして、彼らが夢見ていた、いつ爆弾が爆発するか分からない恐怖とは無縁の「素晴らしい生活」についにたどり着いた──少なくとも、その瞬間はそう思えた。

 アハマドさんとアリアさんはオーストリアの首都ウィーン(Vienna)から乗った列車の中で、ようやく緊張から解き放たれ、トルコ、ギリシャ、マケドニア、セルビア、ハンガリー、オーストリアを経由した1週間の長い旅を改めて振り返った。

 AFPの取材班は今回、2500キロに及ぶ気の遠くなるような夫婦の旅に、ギリシャとマケドニアの国境から、多くの難民が約束の地と夢見て目指すドイツまで同行した。

 アハマドさんは「ついにやった」と笑みを浮かべなからつぶやいた。彼は妻子を危険な場所から避難させるため、所有していた自宅と洋服店を売り払った。

 この1週間、夫婦は国境警備にあたる当局の目をかいくぐりながら移動を続けてきた。ホテルが見つからずに野宿することもあったし、泥棒から身を守ったり、欲深い密航業者とやり合ったりもした。

 夫婦は合法的にバルカン諸国に入ったが、必要な手続きのために、日中の照りつける太陽と夜の凍えるような寒さに耐えながら、長い時間にわたって待ち続けなければならなかった。各国政府や国際社会の援助体制は不十分で、アハマドさんの家族が今回の旅で援助を受けることはほとんどなかった。

 夫婦は列車やバス、時には徒歩で北上した。ドイツ入国までに掛かった費用は9000ユーロ(約120万円)を超える。

 妻のアリアさんは、学校での成績が優秀だったが、2003年に米国が行ったイラクへの侵攻後に勢力を拡大したイスラム過激派組織の影響によって学業をあきらめざるを得なかったのだという。「学校に通っていた頃、武装した男たちに襲撃された。ヒジャブを着けていないから殺すと脅迫された」と当時について語った。

 それでもアリアさんは前を向き続けた。セルビアの首都ベオグラード(Belgrade)から、ハンガリーとの国境に近いカニジャ(Kanijiza)に向かうバスの中で彼女は「少なくとも、夢の幾つかはかなうと期待している」と取材班に述べた。