■過度のストレス、授乳困難に

 難民たちを利用・搾取しているのは、なにも密航業者だけではない。食料や日用品の販売業者らも、水やサンドイッチ、エナジードリンクなどを行く先々で法外な値段で彼らに売りつける。セルビアのプレセボ(Presevo)キャンプでは、登録のために並ぶ列を回避できるとした偽の許可証まで売られていた。これら搾取を取り巻く状況について難民たちは必死に訴えたが、警察官が彼らの声に耳を傾けることはなかった。

 アハマドさんは、ベオグラードのカフェで、ハンガリーの首都ブダペスト(Budapest)まで車で連れていってほしいと密航業者に頼み込んだ。アルジェリア出身の密航業者は「トラックから71人が遺体で見つかったのを知らないのか?子連れは乗せないよ」とアハマドさんに述べ、この依頼を拒否した。これは密航業者の良心が垣間見えた瞬間だったのかもしれない。

 それでも、アハマドさんとアリアさんはようやくブダペストにたどり着き、別の密航業者によってオーストリア国境まで運ばれた。そして、そこからは徒歩で越境するよう伝えられた。一緒に移動していた仲間のうち6人は拘束されたが、アハマドさんとアリアさんはなんとか免れることができた。

 旅の途中、アリアさんはアダムちゃんに授乳することができなくなった。逃亡者のような生活を強いられたことによるストレスで、母乳が出なくなってしまったためだ。アハマドさんは「アリアはずっと食べていなかったから、アダムにおっぱいをあげることができなくなった。息子が泣くのを見ていられない」と心苦しい様子で語った。

 アハマドさんによると、最初は米国で難民認定の申請をしようとしたが実現せず、今回、やむを得ず欧州への違法なルートを選んだのだという。