欧州列車襲撃未遂、鉄道安全対策の課題浮き彫りに
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【8月25日 AFP】2001年9月11日に起きた米国同時多発テロ以来、世界各地の空港はセキュリティー・チェックを強化したが、先週、欧州で起きた高速列車襲撃未遂事件によって、鉄道の駅も同様の対策を取るべきかどうかという問いが浮上した。
今月21日、オランダ・アムステルダム(Amsterdam)発、仏パリ(Paris)行きの国際高速列車にモロッコ国籍のアイユーブ・ハッザーニ(Ayoub El Khazzani)容疑者(25)が、カラシニコフ自動小銃やルガー自動拳銃、刃物などを持って、ベルギーのブリュッセル(Brussels)から乗車した。
乗客の米国人3人などがハッザーニ容疑者を取り押さえたため、起きえた大事件は未然に防がれたが、事件後、ベルギー当局は高速鉄道の荷物検査やパトロールを強化すると発表した。またフランス国鉄(SNCF)も「異常な状況」を報告する緊急ホットラインを導入する方針を示した。
専門家らによれば、こうした措置はテロ対策として有意義だ。だが同時にこれら即席の対策は、空港と同じような安全対策を鉄道の駅に導入することは不可能に近いという根本的な問題を浮き彫りにもしている。
SNCFのギヨーム・ペピ(Guillaume Pepy)会長は「空港の(セキュリティー)システムを現代の鉄道駅にも拡大するという考えは、現実的といえるものではない。大局的な安全対策か、(輸送)効率の低下か、二者択一するしかない」と述べた。
鉄道駅が建設された19~20世紀には、現代のようなテロの脅威は考えられていなかった。その結果、主要な駅はラッシュ時であっても乗降客が最大限、自由に流れることができるように設計された。
また鉄道網は多くの小さな駅のネットワークから成る。フランスだけでも3000か所の鉄道駅がある。英シンクタンク「王立統合防衛安全保障研究所(Royal United Services Institute、RUSI)」のラファエロ・パントゥーチ(Raffaello Pantucci)氏は「旅客機は特定の場所から出発するから、その周りにセキュリティー設備を築けばいい。鉄道の一つ一つの駅でそれをやるのは不可能だ」と語る。
鉄道駅には常時行われているセキュリティー検査がないため、監視要員はパトロールの視認度を高めるといった工夫や、特定の場所に絞ったパトロール、乗客への警戒呼び掛け、監視カメラの設置、警察と鉄道警備の協力強化などに頼るしかない。
英国と欧州大陸を結ぶ高速鉄道ユーロスター(Eurostar)だけは専用のターミナルがあり、乗客は乗車前にターミナルでの荷物検査と身元確認を義務付けられている。しかしこの荷物検査も空港に比べれば厳しくなく、X線検査はあるが液体の回収はない。
一方、イタリアでは今年5月1日以降、一部の主要駅から搭乗する乗客にセキュリティー・チェックを義務付けた。2004年3月11日に首都マドリード(Madrid)で列車同時爆破テロが起きたスペインでも、鉄道のセキュリティーは強化されており現在、長距離鉄道を利用する乗客は荷物検査を受けている。(c)AFP/Julie CHABANAS