【8月26日 AFP】「ぼくが豆腐を食べてヨガをしているとみんなが思い込んでいるが、フリーダイバーをそういうものと決めつけるのは変だ」──フランス南部ニース(Nice)出身で、フリーダイビングの世界的スター、ギョーム・ネリー(Guillaume Nery、33)はそう語る。

 ネリーが型破りなのは、夢を追求しつつ、ダイビングで生計を立てられるビジネスモデルを賢く構築した点だ。日焼けして彫りが深い顔立ちのネリーは、強い日差しが照り付けるコートダジュール(Cote d'Azur)でAFPの取材に応じ、ダイビングにまつわる他の伝説のうそも暴き始めた。こうした説は、フリーダイバー2人の友情や対決を描いたリュック・ベッソン(Luc Besson)監督の映画『グラン・ブルー(Le Grand Bleu)』(1988)が元で広がったものだ。

 ネリーはフリーダイビングの世界記録を4回更新し、最高は125メートル。2011年には世界選手権で優勝した。ダイビングで経済的自立は無理との意見をよそに、ネリーは個人会社「ブルー・ネリー(Blue Nery)」を立ち上げた。「今は自分の映像で生活している」

 ネリーは妻とともに、潜水映像の制作会社「レ・フィルモングルティ(Les Films Engloutis)」を軌道に乗せている。2010年制作の『Free Fall(原題)』では、ネリーが世界で最も深いとされるバハマの海底洞窟「ディーンズ・ブルー・ホール(Dean's Blue Hole、深さ202メートル)」に潜る様子を捉えた。この作品はネット上で2200万回再生され、同社に年間13万ユーロ(約1800万円)もの売上高をもたらしている。

 こうして経済的自立を達成した上、スポンサーの支援も得たネリーは、来月16日にキプロスで開幕する世界選手権に出場し、コンスタント・ウェイト・アプネア(あらかじめ申告された深度まで到達する事を競う競技)種目でのタイトル奪還に挑む。2013年大会では、友人でライバルのアアレクセイ・モルチャノフ(Alexey Molchanov、ロシア)に敗れた。モルチャノフは128メートルの世界新記録も出している。ネリーは大会前のトレーニングを強化し、先月18日にはニース沖で105メートルの深さまで潜った。

 他のスポーツとの違いについてネリーは「エネルギーの使い方を最大化しなければならない。良いダイビングとはすなわち酸素の消費量を抑えることだが、潜水してフィンを使いながら(海面に)戻るには膨大な気力と体力がいる」と語った。「冬眠に近い状態にまでリラックス」するのがカギであり、起床直後の意識になる必要があるという。「無の状態になる場合もある」

 ネリーはまた、約3分半の潜水中は至福の時であり、30メートルより深いところをフリーフォールして「自分自身の感覚に耳を傾け、その瞬間を生きている」時が特に楽しいと話す。「そうしている時に『今、ここで』というぼくのマントラが出てくるんだ」

 世間の人がネリーに抱いている「ヨガに凝っている人」というイメージをネリー本人は受け入れないかもしれない。しかし彼は人々に大きな心の平安を教えてくれる力がフリーダイビングにはあると言う。「これはある種の瞑想(めいそう)なんだ。途方もなく大きな青い海で水の分子のように漂っていると、このうえもなく謙虚な気持ちになる」と語った。「五感の全てで無限を体験できる世界は、他にないよ」(c)AFP/Emmanuel BARRANGUET