■進化の隙間を埋める発見

 そして第2段階、人類祖先が樹上生活の場を捨てた時、湾曲していた指がまっすぐになり始め、道具の創造と使用への道が開けた。

 ドミンゲス・ロドリゴ氏は「手は、道具操作への厳密な特殊化が可能となるように、木々を伝う移動から解放された」と話す。「われわれの発見が隙間を埋めるのは、この部分だ」

 最古と確認されている石器は、約260万年前の時代のものだ。

 英科学誌ネイチャー・コミュニケーションズ(Nature Communications)で発表された今回の発見により、石製の道具や武器を最初に製作したのは、現生人類の遠い親戚にあたるホミニンのいずれなのか──「ホモ・エレクトス(Homo erectus)」なのか、「ホモ・ハビリス(Homo habilis)」なのか──をめぐる現在進行中の論争が激化するに違いない。

 ドミンゲス・ロドリゴ氏は「現生人類に似た手を持つ(『OH86』と命名された)生物が185万年前に存在していたこと、OH86がそれより前の時代と同時代のホミニンより大型サイズだったことを、われわれの発見は示している」と述べている。

 今回の小指の骨が発見された、タンザニアのオルドバイ渓谷(Olduvai Gorge)から得られた考古学的証拠は、サイズが重要であったことを示している。

 初期の人類祖先が体重数百キロに及ぶことがある大型動物の死骸を引きずって運んだことが、化石により判明している。

「身長1メートルあまりのホモ・ハビリスが、それほど大型の動物をどのようにして効率的に狩猟できていたかについて、私はこれまでいつもすんなり理解できなかった」とドミンゲス・ロドリゴ氏は話す。

 体が大きく、より現生人類に近い外見のホミニンの存在は、この謎を説明する助けになると思われる。

 だが、このようなごくわずかな証拠を根拠として導かれた今回の広範な結論を疑問視する専門家らもいる。

 同分野をけん引する研究者の1人、英ケント大学(University of Kent)のトレーシー・キビル(Tracy Kivell)氏(人類学・保全学)は、今回の結果に対して懐疑的な見解を示した。

 キビル氏は、AFPの取材に「この1個の骨だけでは、それ以外の部分の手がどのようになっていたかについては何も分からない。それ以外の骨格がどのようになっていたかも言うに及ばずだ」と電子メールで述べた。

「より完全に近いホミニン化石の最近の発見がわれわれに何かを教えてくれたとすると、それは、骨格全体でみられる、より発達した現生人類的特徴とより未発達の猿人的特徴との奇妙な混在が、特にこの時代においては、例外ではなく標準となっている可能性が高いということだ」(c)AFP/Marlowe HOOD