【8月20日 AFP】鼻息荒く、血走った目で威嚇(いかく)するように対戦相手をにらみつけ、巨大な体をぶつけ合う2頭の雄牛──これは沖縄の伝統的な闘牛「ウシオーラセー」での一コマ。ここでのそれは、スペインの闘牛と違い、牛と対峙するマタドールはいない。

 よだれまみれとなり、長い舌がだらりと垂れ下がっているのは疲れの表れだ。それでも2頭の雄牛は角をがっちりと突き合わせたまま、力を抜かない。2頭の周囲では、はだしの闘牛士が命懸けで雄牛の尻をたたき、威勢の良い掛け声を発して戦いを鼓舞する。牛の多くは1トンを優に超える大きさだ。相手の牛を柵際まで追いやる、または、敗走させると勝ちとなり、決着するまで30分ほどかかることもある。

 日本の闘牛は「牛相撲」とも呼ばれ、数百年の歴史を誇る。優勝した牛は「横綱」となり、恵まれた環境で育てられるのだという。

 闘牛史研究家の宮城邦治さんは、うるま市で行われた大会で、「スペインの闘牛は牛と人間の勝負。人間が牛を最後には殺してしまう」と指摘した上で、「沖縄の闘牛に関しては、虐待という気持ちで見ている人はいないと思う」と話した。

「闘牛に仕立てるには5年位と長く時間がかかるのです。デビューして、戦ってもまあ5~6年。つまりその牛は12~13年と長く生きるわけです。ところがわれわれがステーキなんかで食べる牛は、もう2年ほどで殺されてしまいます」と話し、闘牛の方がはるかに長く生きると説明した。

 宮城さんによると、沖縄の闘牛は元々、農家の人たちが農業で使っていた牛を戦わせる娯楽から来ているという。

 強い牛にするためには、栄養価の高い飼料や心地よい環境が与えられることを説明しながら、「闘牛は(肉用牛に比べて)はるかに長く生きて、かなりぜいたくに育てられる。横綱の牛は子どもを残すこともできるので、いい人生を送っているのだと思う」と語った。

 一方、牛飼いの伊波盛明さんによると、負けた闘牛は精神的なダメージを受けることもあり「精神的なケアも必要だ」という。

「1日の半分以上は牛小屋にいる」という伊波さんは、毎朝5時に牛小屋に来て、餌となる草を刈ったり、小屋の掃除をしたりする。横綱に仕立てるには「1トン近くの巨体、立派な体格、とがった角、それと根性」が必要だと力説した。

 牛飼いの人々は皆、勝つためのそれぞれの秘策を持っているという。伊波さんは、「対戦前は沖縄のお茶を与える。カフェインが入っているから興奮剤になる。牛にはドーピングはないから問題ない」と明かした。(c)AFP/Alastair HIMMER