■年間4万5000人が訪れるダイビングスポットに

 それから30年以上を経た現在、沈没の現場を訪れるダイバーたちは、船と一緒に沈没し、さびついてはいるものの目立った損傷はないトラックの間をかき分けるように進んでいく。一方で経験を積んだダイバーたちは、海底に横たわる船体内の薄暗い倉庫や車両甲板、宿泊スペースへと向かい、中には機関室にまで足を運ぶものもいる。

 ダイビング・インストラクターのハッテ・クラーゼン(Hatte Clasen)氏は、全長172メートル超の沈没船では、「今も甲板に敷かれたカーペットやレストランスペースのテーブルすら目にすることができる」と話す。

 一方、ゼノビア号が沈没した際に死者は出なかったが、その後訪れたダイバーたち数人が命を落としている。

「沈没船の中は危険だ。リスクを冒してまで立ち入るべきではない部屋に入ってしまい、命を落としたダイバーもいる」と、同氏は説明する。

 ただ、経験豊富とはいえないダイバーたちにとっては幸運なことに、ゼノビア号にはハタやバラクーダといった数多くの魚たちが集まり、まるで水族館のような様相を呈した外観だけでも十分楽しむことができる。

 スキューバダイビングの熱心な愛好家で、毎年キプロスを訪れるというロシア人のアンドレイ・プリギン(Andrei Pligin)さん(16)は、今回で206回目となるダイビングを終えた後、「天気は良いし、潮の流れもない。だから船の周囲を回るだけで楽しい」と話してくれた。

 地元当局によれば、このダイビングスポットだけで毎年4万5000人の観光客が訪れるという。

 キプロス島の南岸にあるリゾート地リマソル(Limassol)で、ダイビング会社を経営するジョナサン・ウィルソン(Jonathan Wilson)氏は、ゼノビア号がもたらす経済効果は年間1400万ユーロ(約19億円)に達すると推定する。

 対岸のアラブ諸国が混乱や政情不安にあえぐ中、不況に見舞われているキプロス経済は国内総生産(GDP)の約12%を占める観光業に大きく依存している。

 2013年の経済危機で同国の銀行に対する救済措置が実施されて以降、踊り場にあった経済は回復の兆しを見せつつあり、今年上半期にキプロスを訪れた観光客数は100万人を超え、過去10年で最多となった。(c)AFP/Nadera Bouazza