■「北朝鮮での人気」が意味するもの

 韓国のポップカルチャーは、ラップ歌手PSYの2012年の世界的ヒット曲「江南スタイル(Gangnam Style)」など、近年そのソフトパワーが注目されている。一方で北朝鮮の「牡丹峰楽団」は世界的な足跡こそ残してはいないが、国内では、コンサート開催時に市街から人影が消えるほどの人気を誇る。同楽団の演奏は、ディスコ風の速いテンポの楽曲など、それ以前の北朝鮮の大衆音楽とはまったく違う点が特徴だ。

 フィンランド・ユバスキュラ大学(University of Jyväskylä)のペッカ・コルホネン(Pekka Korhonen)教授(政治学)は、これを欧州に留学していたことのある金第1書記の好みだろうと推測する。「牡丹峰楽団は驚くほどの人気だ。でも、北朝鮮での人気とは何を意味するのか。楽団は金第1書記の新しい統治の象徴。したがって、楽団の人気は、金氏の興味が他に移るまでしか続かない」と指摘している。

 国境地帯で活動するミュージシャンの多くは、音楽大学などで教育を受けているが、それでもなかにはカラオケに毛が生えた程度の演奏が披露されることもある。

 昆侖国際商務酒店では、ボーカルを担当する女性ら3人は、同時にレストランに3人しか居ないウェートレスでもある。食事客のデュエットの相手をして、差し出された100元(約2000円)札をどこかぎこちない様子で受け取る。チップがない中国では珍しい光景だ。

 自治州政府所在地である延吉(Yanji)市は、琿春からそう遠くない場所にある町だ。この場所には、北朝鮮の首都・平壌(Pyongyang)で1987年に建設を始めたものの、未完成のままとなっているピラミッド型の105階建てホテル「柳京ホテル(Ryugyong Hotel)」と同名の宿泊施設がある。ここでは、そろいの紅白の服を着た女性たちが、祖国北朝鮮のマスゲームを彷彿(ほうふつ)とさせる一糸乱れぬダンスで華麗なステップを披露していた。