【7月27日 AFP】ケニア北部のサイ保護区で、低空飛行するヘリコプターから14歳の雄サイ、ナーシャに向けて赤い羽のついたダート(矢)が放たれた。ダートはナーシャの臀部(でんぶ)の厚い皮膚に刺さり、ナーシャは倒れた。

 数分後、今度は10歳の雄サイ、シラーが撃たれた。重量1トンの巨体が土煙をたてて頭から地面に倒れ込む。

 麻酔銃でナーシャとシラーを撃ったのはマシュー・ムティンダ(Matthew Mutinda)氏だ。続いて2頭のサイへの対応が迅速に進められていく。

 野生動物保護の専門家バティアン・クレイグ(Batian Craig)氏がナーシャとシラーの角をチェーンソーで切り落とし、残った根元の穴に無線送信機を埋め込む。鼻に酸素チューブを挿入し、血液サンプルを採取する。作業はナーシャの体を冷やすために背中に水をかけながら行われた。ナーシャの呼吸は深く安定している。皮膚は熱く濡れたじゅうたんのようだ。

 角を切断して無線送信機を挿入し血液サンプルを採取するまでの作業は20分余りで終了。ムティンダ氏がナーシャの耳の後ろに解毒剤を注射し、アゴをたたいて牛追い棒でつつくと、ナーシャは目を覚まして体を起こし、よろめきながら、金具で補強された木製のおりの中へ自ら入っていった。

 過去にサイを捕獲した時には、体重では超重量級のサイがおりの一方の隅に突進し、保護管理員とカメラマンが宙に飛ばされたこともある。

 サイが入った木製のおりはクレーンでトラックの荷台に積み込まれ、トラックはサイの新しいすみかに向けて4時間のドライブに出発した。

 ナーシャとシラーを捕獲した一連の作業は、ケニア北部に新しいサイ保護区を設立する数年がかりの活動のハイライトだった。この保護区の特徴は、国立の自然公園でも私有地でもない、地元コミュニティーの土地に設立された初めての野生動物保護区という点だ。かつてこの土地にいた最後の1頭のサイは数十年前に密猟で殺され、それ以来サイがいない状態が続いていた。