【7月6日 AFP】北アイルランド(Northern Ireland)紛争への対応に苦闘していた英国の各省関係者らが、当時英国が統治下に置いていた香港(Hong Kong)の住民550万人全員を北アイルランドに移住させる英研究者の提案について「冗談で」意見交換していたことが、3日に公表された機密文書で明らかになった。

 1983年10月に英レディング大学(University of Reading)の講師、クリスティー・デイビス(Christie Davies)氏は、北アイルランドの現地紙ベルファスト・ニューズレター(Belfast News Letter)の紙面で、97年の中国返還後の香港住民の未来は不透明だと警告。その上で、北アイルランドのコールレーン(Coleraine)とロンドンデリー(Londonderry)の間に新都市を設けて香港の住民を移住させ、停滞していた北アイルランド経済の再活性化につなげる案を提示した。当時、北アイルランドでは英国からの分離独立を主張するカトリック系住民と、親英派のプロテスタント系住民が対立していた。

 この記事を読んだ英国の北アイルランド省のジョージ・ファーガソン(George Fergusson)氏は、外務省の同僚に文書を送り、「現段階でこの提案に真剣に耳を傾けることに利点があるのは間違いない」として、北アイルランドの親英派の住民に、英政府の努力を認識させる上で役立つと述べた。

 2週間後、ファーガソン氏は外務省のデビッド・スノクセル(David Snoxell)氏から返信を受け取った。その中でスノクセル氏は、この提案は逆に北アイルランド住民の英国離れを招く可能性があると指摘。「550万の中国人が北アイルランドに到来すれば、元の住民が故郷を捨て、流出することを誘発するかもしれない」と述べた。

 スノクセル氏はさらに「東南アジア方面では船で大量脱出するボート難民が生じる危険性を過小評価してはならない」「そうして流出する人々の代わりに信心深く、法を順守し、勤勉さが身についている人々が来るとなれば、周辺地域の国々は落ち着きをもって受け入れるだろう」などと記した。

 すでに引退しているスノクセル氏は、同氏は英BBCに対し、このやりとりが英国立公文書館(National Archives)に保管されたことに驚いたと述べるとともに、文書は「ユーモアが分かる同僚同士の悪ふざけだった」と説明し「残念だが、こんな冗談を言うことはもうできない。外務省はユーモアのセンスを失ってしまった」と語った。

 中国返還前に海外に移住した香港住民は推計100万人。移住先はカナダや米国、オーストラリアが多かった。英国は約5万家族を受け入れた。(c)AFP/Alice RITCHIE