【6月10日 AFP】イスラム過激派組織「イスラム国(Islamic StateIS)」が先月、イラク西部ラマディ(Ramadi)を制圧したとき、アブ・ヤサールさん(44)は、自分が住む北部モスル(Mosul)がIS支配から解放される見込みがさらに遠のいたと落胆した。

 イラク第2の都市モスルは最大の要衝とされ、ISとの戦いにおける最終決戦の場になるとみられている。だがモスル市民たちは、「最後の奪還目標」とされることによって、自分たちの番が最終的に回ってこないのではないかと恐れている。ラマディでのイラク政府軍の撤退の仕方は、昨年6月にIS系勢力にほとんど抵抗することもなくモスルを奪われた政府側の大敗を思い起こさせた。

 今年4月に北部ティクリート(Tikrit)を奪還した政府軍は、モスルよりも望みがある目標として、アンバル(Anbar)州の奪還作戦を開始。だが政府軍は進撃するどころか、さらなる領土を奪われたため、住民らの期待は失われた。「モスルに関しては、解放に向けた政治的意思が弱いように思える」とアブ・ヤサールさんは語った。

 イラクや米国の当局は、モスル奪還の時期を何度も発表してきた。当初は2014年末までにとされていたのが、今年4~5月へと延期され、さらに2015年末へと延ばされた。今や両政府ともより慎重になっており、奪還計画は白紙に戻ったようにも思える。

 政治リスクに関する研究・コンサルティングを行う会社ユーラシア・グループ(Eurasia Group)の中東・北アフリカ部門担当ディレクター、アイハム・カメル(Ayham Kamel)氏は「モスルの作戦は無期限で延期されている」「短期間で勝利をあげるには、モスルは大きすぎる」と指摘する。

 モスルの10分の1ほどの大きさのティクリートは、イラク軍が3月に奪還作戦を開始した頃には、住民は残っていなかった。一方、モスルの人口200万人の約半数はまだ同市に残っているとされる。市外へと出ることを希望する住民は、ISの許可を得たうえで、戻ってくることを保証するために不動産の権利書や親類の名前を渡す必要がある。