■上半身裸で後ろ手に手錠

 警察車両に囲まれながら、2台のバスが姿を現したのは、午後5時だった。1台目は窓がスモークガラスだったが、2台目の窓はいくつか開いていた。今しかない、と思った。

 私は開いている窓にカメラを向けて、シャッターを切り始めた。頭の中にあったのは、自分の写真のことだけ。護送車の中で、上半身裸のまま後ろ手に手錠を掛けられていた囚人たちの罵声も、恐ろしい顔も、気にならなかった。

 急いでレンズを変え、埃で汚れた窓の外から囚人の目を撮ろうとカメラを向けたら、ファインダーに突然、タトゥーだらけの顔が飛び込んできた。私が写真を撮っていることに気づいた男は、キスしてみせて大笑いした。数分後、刑務所の門が開き、バスが中へ入って行った。私が写真を撮ることができたのは、わずか2分だったが、仕事はしっかりできた。

 これを書いている今も、あの囚人たちの目がはっきりと思い出される。ギャングの冷徹な視線を撮影するときは、いつも背筋が凍る思いがする。だが、こうした写真によって、この美しい場所にギャングの暴力がはびこるというこの国の残酷な現実を、世界に伝えることができる。

 エルサルバドルでは殺人事件が起きない日など1日たりともない。私はこうした「死」をギャングたちの目を通して、また恐怖の中で生きざるを得ない人々の目を通して見ている。そうした恐怖心は人々を麻痺させ、生活のすべてに影響を及ぼす。

 公式の統計によると、エルサルバドルでは計6万人前後のギャングが活動している。加えて、1万3000人が刑務所に入っている。最大勢力である二つの組織、「マラ・サルバトルチャ」と「バリオ18(Barrio 18)」は麻薬密売の覇権をめぐり、血みどろの縄張り争いを繰り広げている。さらに小規模なギャング組織も存在している。

 こうした中では、誰がギャングで誰がそうでないか、見分けなどつかない。バス停で毎日顔をあわせている人はギャングのメンバーかもしれない。街で時間を聞いてきた人もそうかもしれない。彼は銃を持っていなかっただろうか?エルサルバドルで私たちは、明日のことを考えずにその日その日を暮らしている。真隣にいる人物が一体何者なのか、決して分からないからだ。(c)AFP/Marvin Recinos

この記事は、エルサルバドルの首都サンサルバドルを拠点とするAFPの写真記者マルビン・レシノスが書いたコラムを翻訳したものです。