■役人やロヒンギャ人自らも絡む密航ビジネス

 今月1日、マレーシア国境に近いタイ南部の丘で難民たちの遺体が埋められた集団墓地が発見され、タイ当局はようやく重い腰を上げて捜査を開始した。これを受けて密航業者たちは、海上や森林の収容所に難民たちを残したまま逃亡した。

 タイの役人はこれまで人身売買を見て見ぬふりをし、時に賄賂を受け取ることさえあると非難されてきた。タイ南部サトゥーン(Satun)県では「コー・トン(親分トン)」の異名を持つ地方官僚が、人身売買に関与していた疑いも持たれている。

 人身売買に詳しい専門家らによれば、タイは競合する国際犯罪組織が運営する数百万ドル規模の人身売買の中心地だ。人権団体フォーティファイ・ライツ(Fortify Rights)のマシュー・スミス(Matthew Smith)氏は「ミャンマーやマレーシアの密航業者は、タイのボスたちが分け前の大半を取っていく」と話している。

 同氏の推計によれば12年以降、人身売買産業によって2億5000万ドル(約300億円)が生み出された。この金は「さまざまな層の人物」によって享受されてきた。ミャンマーのラカイン(Rakhine)州では、国籍を与えられずにいる130万人のロヒンギャ人の多くが12年の民族間衝突以降、密航船に乗り込んでいる。隣国バングラデシュでも今年1~3月の間に2万5000人のロヒンギャ人と貧しい難民たちが、ベンガル湾(Bay of Bengal)から密航した。同国のコックスバザール(Cox's Bazar)では、約30万人のロヒンギャ人の難民と膨大な数の貧しいバングラデシュ人が、かろうじて生き延びている。

 タイでの摘発以来、16人の人身売買業者が逮捕されている。コックスバザールの警察幹部はAFPに「こうした業者たちは船で商売をしていた者たちや元漁師が、密航ビジネスの活況に釣られて人身売買業者になったのだ」と語った。中には自分の同胞を食い物にする、ロヒンギャ人の業者さえいる。

 コックスバザールの避難民キャンプに住む25歳のアンワール・ホサインさんは「多くのロヒンギャ人が人身売買業に絡んでいる」という。「でも、彼らを責めることなんてできないだろう?仕事はほとんどない…僕たちには、善悪をわきまえる選択肢なんてほとんどないんだ」(c)AFP/Preeti JHA