■手つかずの環境

 複数のプレートが接する境界に位置している日本には、100を超える活火山がある。西之島の溶岩の流出がいつ止まるのか、それは科学者にも分からない。だが、火山活動による島の拡大は、周縁部の波による浸食で相殺されている。

 西之島は、1963年にアイスランド沖30キロの位置に出現したスルツェイ(Surtsey)島と同じ道をたどるとみられている。国連教育科学文化機関(UNESCO、ユネスコ)の世界遺産にも登録されている同島は、生態系の形成過程を研究できる自然の実験場の代表例として世界中に知られている。

 ユネスコのウェブサイトによると、同島の研究が開始された1964年には、海流による種子の到来、カビ、バクテリア、菌類の発生を確認。翌1965年には維管束植物の生育が初めて観察された。2004年までに60種の維管束植物、75種のコケ植物、71種の地衣類、24種の菌類、89種の鳥類(内57種は島外で繁殖)、335種の無脊椎動物が確認されている。半世紀ほど前に誕生したばかりの島としては悪くない。

 西之島が野生生物の楽園となるには、スルツェイ島より時間がかかるかもしれない。本州から遠く離れ、小笠原諸島の島々にも近いとはいえないために、到来する鳥や種子の種の数が限られるからだ。

 何も描かれていないキャンバスのようでわくわくすると語る一方で、可知教授は「上陸する人は外部からいろいろなもの、外来種を持ち込んでしまわないよう特別に注意してもらいたい」と警告もする。

 教授は2007年に小笠原諸島の島で実地調査を行った際、新品でちりひとつないほど清潔な機器を用意し、燻蒸したクリーンルームで荷造りした上で持ち込んだという。西之島の実地調査を行う際にも同様の予防措置が取られなければならない。

 可知教授は「生物学者はこういうことはすぐにピンと来るが、多分、最初に上陸するのは地質学者や火山学者だろう。専門が違うと、こういうことには詳しくないかもしれない。アドバイスを求められれば喜んでする」と語った。(c)AFP/Kyoko HASEGAWA