■経済成長で薄れた家族への関心

 しかし、中国ではここ30年の経済成長で仕事を探すために、親を置いて実家を出ていく子どもが急増している。高齢者の自殺率が過去20年で5倍以上になった地方もあると国営メディアは伝え、家族の無関心が主な原因だと考えられている。

 3億5000万人の国民のうち4人に1人が、2030年までに60歳以上になると予想されている。現在の倍の割合だ。一方で「一人っ子政策」により、親の世話は1人の子どもの肩にのしかかるだろう。そこで中央政府は地方政府と協力し、親孝行の模範例を示して奨励する策に出た。

 四川省の博物館は4か月前に開館し、地元自治体が少なくとも建設費の4分の1を負担した。展示の最初のパネルには、孔子と習近平(Xi Jinping)国家主席の同じ大きさの肖像が飾ってあり、親孝行を説いているとされる孔子の『弟子規』を読むよう、習主席が政府高官らに勧めた言葉が添えられている。

 しかしこうした政策は、国が負うはずの高齢者への福祉の義務を転嫁するものだと批判されている。政府の昨年の発表によれば、高齢者1000人当たりに対する介護用の病床は25床しかない。一方で健康保険は主要な治療をほとんどカバーしない。

 四川の博物館の創立者である実業家の廖林(Liao Lin)氏も、親孝行の模範例を示すだけでは十分ではないと認め「中国の社会保障システムは依然、不十分だ」と批判する。「こうした展示の完璧な例を目にすることで、みんながもっとやろうと思ってくれるといい。親の面倒を十分にみていないことに罪悪感を覚え、家へ帰って親の足を洗ってあげようと思う。我々が期待しているのはそういう結果だ」(c)AFP/Tom HANCOCK