【3月25日 AFP】レザーグッズと迷彩服をまとったビタリさん(35)は、強い愛国心を掲げるロシアのバイカー集団「ナチヌイエ・ボルキ(夜の狼たち、Night Wolves)」のウクライナ支部リーダーだ。

 元兵士のビタリさんは、ウクライナの親ロシア派の拠点となっている東部ルガンスク(Lugansk)に構えるクラブで取材に応じ「祖国、そして領土への愛が、俺の人生だ」と語り、「俺は『夜の狼』で、反体制派ではない。祖国を守っているだけだ」と述べた。

 ビタリさんとメンバー十数人は1年前にウクライナ軍と親ロシア派武装勢力との戦闘が始まって以来、ウクライナ東部の分離独立を掲げる親ロシア派と共に戦っている。ビタリさんは、クラブの入り口に飾られた黒焦げのウクライナ軍の戦車について、廃虚と化したルガンスク近郊の村クリャシチュバテ(Khryashchuvate)での戦闘で、メンバーが破壊したものだと説明しながら「俺たちのトロフィーだな」と冗談を言った。

 バイクへの情熱と「祖国とロシア正教への愛」で結ばれたクラブのメンバーは、ほとんどがウクライナ東部ドンバス(Donbass)地方出身だ。他のメンバーは、ロシアや旧ソ連構成国の出身で「ロシアの世界」を守るために、ルガンスクにやって来た。メンバーの1人、ベラルーシ出身のオレグ・ゴロワさんは昨年3月、ロシアがクリミア(Crimea)半島を併合する直前に来た。「困難がある場所へはどこでも、俺たちは最初に駆け付ける。クリミアの時もそうだった」と話し、「ドンバスのときと同じくらい展開が早く、悲劇的に爆発した事態になるところだった。クリミア半島を最初に守ったのは俺たちだ。プーチン大統領もそれを認めている」と語った。

 ナチヌイエ・ボルキはロシアで創設された集団で、ウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領と近い関係にある。ナチヌイエ・ボルキの愛国心を称賛するプーチン大統領が、彼らのバイクイベントに参加したこともある。ロシアのクリミア併合から1年が経つのを記念してモスクワ(Moscow)で開かれた集会では、リーダーのアレクサンドル・ザルドスタノフ(Alexander Zaldostanov)さんも演説を行った。

 2月に発効したウクライナ軍と親ロシア派武装勢力の停戦合意が順守されない状況の中、ビタリさん率いるバイカーたちは、親ロシア派が主催するイベントでの安全確保や、人道支援物資の配布といった任務を任されている。クラブの寝室のベッドの隅にはカラシニコフ銃が置かれたままだ。ビタリさんは「俺たちはどんな事態にも準備ができている。停戦など信じちゃいない」と話した。

 ロシア国内の支部にならって、ビタリさんのクラブも「ロシアの世界を統合するため」、さまざまなプロジェクトで企画や資金調達を行い、社会と若者の愛国心を育む啓蒙活動の普及を目指している。ゴロワさんは「ソ連が崩壊し、ソ連のアイデンティティは消滅したが、人々は今もロシアのアイデンティティによって結ばれている」と話し、「ロシア人であることは国籍の問題じゃない。心のありようだ」と付け加えた。(c)AFP/Maxime POPOV