【3月30日 AFP】スーダンの首都ハルツーム(Khartoum)にある古びた体育館でレスリングの練習に励む山岳民族ヌバ(Nuba)出身の男性たち──汗で色あせたタンクトップを着てレスリングの練習に励む彼らの姿を厳しいまなざしで見つめるのは、日本人のコーチ、砂川航祐(Kosuke Sunagawa)さん(23)だ。砂川さんは、全日本学生選手権での優勝経験を持つ一流の選手だ。

 宗教的、民族的に多様なヌバの文化の一部として確固たる地位を築いているレスリング。その伝統は約1000年以上も続いているとされ、若くたくましいヌバの選手たちは、歩けるようになるとすぐにリングに上がるとまで言われている。

「スナ(Suna)」の愛称を持つ砂川さんは、ハルツームにある在スーダン日本大使館から、2020年に開催される東京五輪に向け、メダル獲得が期待できるチームの構築を託された。ヌバの歴史で初めてとなる日本人のコーチだ。レスリングは日本のお家芸。近年の大会でも数々のメダルを獲得している。

 砂川コーチの感想によると、スーダンの選手たちは、体力は非常に優れているが、それ以外に特に際だったところはないという。インタビューに応えるコーチの背後では、練習に励む選手たちと、その様子をじっと見つめる他の選手たちの姿が見られた。彼らは新しい技を習得しようと必死なのだ。

 ヌバのレスリングに日本政府が初めて携わったのは2013年。当時、スーダンの日本大使館に勤務していたいた外交官の室達康宏(Yasuhiro Murotatsu)氏が、地元のレスリング大会に参加したことがきっかけとなった。結果は6戦全敗だったものの、彼の試合は人気を博し、数百人の観客を集めた。

 いまだ政情不安の北アフリカ地域において、スーダンは比較的安定している方だ。しかし、諸外国からの影響を警戒する国と関係を築くに当たり、日本大使館は、室達氏が構築した現地とのつながりを足がかりとすることを決め、5万ドル(約600万円)の予算を計上した。

 砂川コーチの「任務」は簡単ではない。1960年以降にスーダンが五輪大会で獲得したメダルの数はわずか1個。指導する選手たちは、歩けるようになったころからレスリングに親しんでいるとはいえ、五輪競技のルールには慣れていない。

 ヌバのレスリングは砂のリングの中で行われる。相手の背中を地面につけた時点で勝ちとなるが、五輪競技では、さまざまな技が決まるごとにポイントが加算される。もちろん相手の両肩をマットに付ける(フォール)ことでも勝ちとなる。

 2月にはハルツームに約1か月間滞在した砂川コーチ。自らが考案した練習メニューを使って、選手たちの潜在能力を最大限引き出そうとしたと話す。4月には、選手4人とコーチ2人の計6人を日本に呼んで練習する予定となっているが、十分なチームづくりのためには、まだやるべきことは山ほどあるという。