■時が止まった遺族ら

 放射線の影響も覚悟の上で、損壊した建物のがれきから行方不明者を捜す活動を始めた上野さんは、3月末にはボランティアの人々と共に海岸まで捜索範囲を広げ、そこですぐに7体の遺体を見つけた。その後数か月間で、さらに数十体の遺体を発見。だが、息子は見つからなかった。

「永吏可のことは抱きしめることができた。抱きしめながら、謝ることが自分の中でできた」「倖太郎も同じようにやはり抱きしめて、一言ごめんなさいと言いたくて。倖太郎を見つけてあげたいというのがすごく強くて」

 上野さんと同じく、震災の影響で新たな一ページをめくることができずに苦しんでいる人々はまだ数千人もいる。死者を悼むのになくてはならない遺体を見つけることができず、深い悲しみが時の中で凍りついたままだ。

 大震災で家族などを亡くすことは免れたが家を失ってしまった人々にとっては、また別の苦しみがある。避難指示の解除が進む一方で、地域によっては、放射線量が高いため自宅に戻れないままの人がまだ数万人いる。

 日本赤十字社(Japanese Red CrossJRC)の近衞忠煇(Tadateru Konoe)社長は、「東日本大震災の壊滅的な被害から、復興については全体的にかなりの進展がみられる」「しかし、コミュニティーの復興には重大な遅れが生じている。生活再建ができていない多くの高齢者やその他の脆弱(ぜいじゃく)な人々に対しては、特に注意して目を向ける必要がある」と指摘している。