【3月4日 AFP】トルコ国境に近いシリア北部の要衝の町アインアルアラブ(Ain al-Arab、クルド名:コバニ、Kobane)を、イスラム教スンニ派(Sunni)の過激派組織「イスラム国(Islamic StateIS)」からクルド人部隊が奪還して待つこと2日。私たちはついにトルコ当局の許可を得て、その町に数時間だけ足を踏み入れることができた。トルコ警察は私たちの名前を書きとめ、コバニに入るシリアとの国境まで護衛してきた。トルコと外国のメディア、約20人の報道陣だ。

 コバニに入るとすぐに、クルド人戦闘員の一群が握手で迎えてくれた。それから私たちは町の中心部を歩き始めた。戦闘員たちは、東側にはまだ砲弾が残っているから町の西側だけにとどまっているよう私たちに言った。それ以外は、自由に見て回ることができた。

 私は建物の屋上の見晴らしのいい場所を見つけた。戦闘員がそこに立ち、東側を俯瞰しながら、地上にいる同僚に無線で情報や指示を送っていた。

イスラム教スンニ派の過激派組織「イスラム国(IS)」からクルド人部隊が奪還したシリア北部の要衝の町アインアルアラブ(クルド名:コバニ)で建物の上から町の頭部を見渡し無線で連絡をとるクルド人男性(2015年2月28日撮影)。(c)AFP/BULENT KILIC

 私の見る限り、町の東部は完全に破壊されていた。広大な地域が廃虚と化し、がれきだけになっていた。イスラム国は東側からコバニに進入してきたからだ。

 反体制派の自由シリア軍(Free Syrian Army)やクルド人部隊の女性戦闘員が大勢見えた。マシンガンをいじっている者もいれば、パトロールをしている者もいた。その表情には、町を奪還したことの喜びと安堵が浮かんでいた。

 出会った父親と子どもに話を聞きたい、少なくとも名前だけでも教えてほしい。それが私がすべき仕事だ。どこかで過ごすときには、人々に話を聞く。だが結局、その機会は得られなかった。

 私はまた、混乱の中にある一瞬の優美な時をカメラに収めたいと思った。この猫をあやす戦闘員の一枚のような瞬間だ。この写真は昨年、ウクライナ東部の親ロシア派武装勢力が掌握している主要都市ドネツク(Donetsk)で私が撮った1枚と似ている。そこでも私は子猫を肩に乗せた親露派の戦闘員を撮った。私の好きな構図なのかもしれない。

イスラム教スンニ派の過激派組織「イスラム国(IS)」からクルド人部隊が奪還したシリア北部の要衝の町アインアルアラブ(クルド名:コバニ)で出会ったクルド人戦闘員(2015年2月28日撮影)。(c)AFP/BULENT KILIC

 クルド人戦闘員たちがメディアの取材を嫌がっていないのは明らかだった。彼らは勝利に歓喜していたし、私たちは彼らが望むようにその勝利を取材していたのだから。コバニでの戦闘が始まったとき、私はトルコ側からそれを見ていた。爆撃に地上戦、すべて地獄のようだった。この町を4か月にわたり撮影してきたが、ひどく厳しい時間だった。そしてついに、自分の目でコバニを見ることができた。あの戦闘が終わった今、この町に足を踏み入れることは、私にとっても大きな意味を持っている。

 トルコに戻り、撮った写真をカフェから編集部へ送りながら、次はどうなるのだろうと考えた。町から逃げた避難民たちは家に戻りたがるだろう。だが可能なのか?あそこにはもう何も残されていない。彼らはどこへ戻るというのだ?それが次のストーリーになるだろう。(c)AFP/Bulent Kilic 


この記事は、AFP通信トルコ・イスタンブール支局の写真記者ビュレント・クルチュが書いたコラムを翻訳したものです。