【2月23日 AFP】イタリアのギター職人、ロベルト・セレッティ(Roberto Ceretti)さん(50)にハンドメードのギターを売ってほしいと頼んでも、恐らく断られるだろう。セレッティさんのギターはコレクターの間でも人気があるが、彼が顧客とするのは困窮している一流のギター奏者だけだ。

 イタリア北西部の山の中にたたずむセレッティさんの工房には、製作中のギターがつるされ、壁にはシダー、ローズウッド、マホガニーなどギターに使用される木材が置かれている。大きな製図板にはクラシックギターの設計図が幾つも張られている。

 セレッティさんは「12歳の時にボール紙で初めてギターを作った。もちろん、ギターとしては使えなかったけれど、情熱に突き動かされた」と語る。ギター職人として本格的に仕事を始めたのは15年前。ピエモンテ(Piedmont)州の森に持っていた古い別荘を工房に改装した。ここで作るギターは年間5~6本ほど。経済危機で大きな痛手を被った音楽家たちに格安で売る。

 冬になると、ギターの材料となる木を自ら伐採しに行く。冬は木が割れにくく、材料を入手するには最も適した季節だ。トラックに積んで工房へ持ち帰り、愛犬のかたわらで、製作に適した大きさに切っていく。通常はまき割りに使われるレッドウッドやモミの木などからも美しい木目のものを選び、ギターのトップやバック、ネックに使用する。ブリッジやナットなどのパーツに使うのも天然素材だ。

 ギター作りでセレッティさんが影響を受けているのは、近代のクラシックギターを最初に設計したことで知られる19世紀のスペインの弦楽器職人、アントニオ・トーレス・フラード(Antonio Torres Jurado)のような巨匠たちだ。

 深い音色が魅力のハンドメードのモダンギターは最高2万5000ユーロ(約400万円)の値が付く。だが、セレッティさんにとってギター製作は金銭のためではない。「ギターは窓際に座らせる売春婦ではない。一生手元に置き、弾いて、愛情込めて手入れする楽器だ」と話すセレッティさんは、こう言い切る。「私の客は演奏家だけ。コレクターや壁に掛けるおしゃれな飾りを欲しがる人々のためには作らない」

 仕事以外の時間は近くの川沿いを歩いて、新鮮な木材を集めるのに適したタイミングを辛抱強く待つ。そのタイミングは、キクイムシ(木食い虫)の有無に影響する月の満ち欠けからはじき出されることが多い。木材の準備ができてからギター完成までは1か月ほど。最後は指板のインレイ(装飾)やロゼッタ(サウンドホール周りの縁の装飾)を施して仕上げる。

 ギター作りは手間がかかり、骨の折れる仕事で、3人の子どもが継ぐことはなさそうだが「とてもやりがいがある」とセレッティさんは話す。

「今の状況でイタリアで音楽家をやっていたら、金にならない。だから代金は請求しないことも多い。代わりに物々交換をする」。これまで代金の代わりに必要としている機械や工具、コンクリートミキサーなどを受け取ったことがある。「一流の演奏家たちと、いつもこうやって働いてきたんだ。彼らの懐に余裕があるなら、1本2000~7000ユーロ(27万~95万円)は請求するかもしれないが、そんなことは滅多にない」と話し「経済危機の今は、困っている本物の音楽家を助けたい」と語った。(c)AFP/Ella IDE, Marco Bertorello